「宣言延長「いつまで続くのか」 飲食店・医療…募る不安 新型コロナウイルス」

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 以下、朝日新聞デジタル版(2020年5月4日 22時00分)から。

新型コロナウイルスの感染拡大に伴う緊急事態宣言が、今月末まで延長される。先行きが見えない休業・時短営業、幼子を抱えながらの在宅勤務――。不安と負担は、もう1カ月続くのか。逼迫(ひっぱく)する医療現場は延長に理解を示すが、「解除の目安を」との声が上がる。
 東京都では確認された感染者が4500人を超え、全国の3割を占める。
 飲み屋が軒を連ねる新橋では緊急事態宣言が出た4月上旬以降、多くの店がシャッターを下ろしたままだ。営業を続ける居酒屋「野焼」には4日夕、4組の客がいた。普段の祝日に比べ、半分ほどの客数という。いったん休業した後、営業時間を短縮して4月27日から再開した。5月中に一定の売り上げに達しなければまた休業する。店長の藤澤かおりさん(33)は、緊急事態宣言の延長について「しょうがないことですけど、生活もある。追加の支援がなくこの状態が続くと、厳しいですね」とこぼす。
 1932年創業のおでん屋「新橋お多幸」は4月4日から休業し、昼間やテイクアウトの営業も控えた。宣言延長を踏まえ、7日に社員らで今後の営業について話し合う。休業への都の協力金50万円はすでに申請し、他の給付金も申し込む予定だが、ひと月140万円の家賃や400万円近い人件費には到底足りない。店で働いて29年目の柿野幹成社長(54)は「昼も夜もこんなに人がいないのは過去になかった。いつまで続くのか分からないのが怖い。追加の協力金や家賃補助が出ると助かる」。
 学生街の高田馬場は大学の休校が相次ぎ、人影はまばらだ。飲食店組合の役員の男性は「個人事業主が多いので、いつまで体力がもつか。命を守るために要請には従うが、行政の動きは全体的に遅い」と憤る。自分が営む駅前の貸しビルは5月から3カ月分の家賃を減額すると決めた。「テナントが撤退してしまってはにぎわいが減る。困っているのはお互い様なので、力を合わせて乗り切りたい」
 大田区に集まる町工場。建築資材の部品をつくる池田克憲さん(77)の工場は月平均約80万円の売り上げが、5月に40万円に。6月以降はさらに減りそうで、200万円の融資を申し込んだ。リーマン・ショックの際に仕事がなくなり、アルバイトをした記憶がよぎる。「まだ借金もあり、この先は不安しかない。コロナは終わりが見えない」
自宅で育児、子どもへの悪影響も心配
 幼い子どもがいる家庭では、子どもの世話と在宅勤務の両立に悩む。
 「いつまで続くのか。緊急事態宣言の延長が繰り返されるのでは」。東京都世田谷区で在宅勤務をする会社員の女性(35)は不安を募らせる。4歳の長男と1歳の長女を認可保育園に通わせていたが、区の園は「原則休園」で、自宅でずっと面倒をみている。
 子どもが起きている間に仕事するのは難しい。オンラインで会議をしていると、子どもが割り込む。大事な電話をしていても、「ママ! ママ!」と呼ばれ続ける。夜中や早朝に何とか仕事をこなす日々だ。会社員の夫(35)も在宅勤務だが、一日中会議が入るなど、頼るのが難しい日もある。
 子どもへの悪影響も心配だ。やむをえずテレビを見せっぱなしにしてしまい、罪悪感がある。保育園では栄養バランスを考えた昼食が提供されていたが、自宅ではパンなど簡単なものになりがちだ。
 世田谷区では保育園に相談し、認められれば子どもを預けることは可能だ。上司から、「なぜ預けないのか」と聞かれたこともある。だが、感染への恐怖もある。「登園させて感染したら後悔する。限界まで自宅でやるしかないのかな、と思う」と複雑な思いを吐露する。
 一方、保育園は保護者が医療に従事していたり、自宅で子どもの面倒を見られなかったりするケースがあり、全面休園はできない。
 「登園自粛」を要請した上で開園している板橋区のある保育園では、約70人の在籍園児のうち20人ほどが今も登園している。マスク着用や消毒を徹底するが、保育士と園児の濃厚接触は避けられない。50代の女性園長は「ここがクラスターになったら、という恐怖感が常にある。この1カ月だけという思いで頑張ってきたが、保育士たちも疲弊している」と話す。
 子どもの預け先が確保できずに勤務できない保育士もおり、勤務のやりくりも大変だ。「宣言延長を機に一律休園にしてほしいというのが本音です」
 東京都杉並区で認可保育園を運営する社会福祉法人「風の森」の野上美希統括は「感染者が出続けている状態なので、宣言延長は仕方ない」と受け止める。ただ、家庭からは仕事と育児の両立に悩む声が聞こえてくる。野上さんは「無理をしている家庭がほとんど。保護者が追い詰められていないか心配だ」と話す。
都内の医療現場や保健所「解除の指針も」
 逼迫(ひっぱく)した状況が続く東京都内の医療現場や保健所では、延長は想定通りとの受け止めが広がる一方で、「国は解除の目安を示して」と求める声が上がる。
 10人超の感染者が入院する河北総合病院(東京都杉並区)。副院長の岡井隆広医師(57)は「解除になるとは思わなかった。延長はやむを得ない」と話す。
 新型コロナの専門外来では、医師会の応援も得てPCR検査を実施しているが、1日に受け入れられるのは25人。連日、患者でいっぱいの状況が続く。
 感染者の入院も、3月末から始まった。一つの病棟を新型コロナ専用に切り替え約15床を確保したが、満床に近い。岡井医師は「ベッドが埋まったら、次はどうするか」と頭を悩ませる。
 長期化による不安も尽きない。疲れから医療スタッフの作業にミスが生まれたり、院内感染が起きたりしないか。医療用ガウンなどの医療物資は確保できるのか――。「外出を控えて糖尿病を悪化させたり病気の発見が遅れたり、後から出てくる他の患者のリスクも心配だ」
 都内の区保健所には、ひっきりなしに電話がかかり続けている。ある区では毎日約300件。担当者は「延長は予想していたが、何をもって宣言を解除するのか。政府はその指針も示して」と求める。
 不安なのは「第2波」だ。「日本では夏にはいったん収束に向かうかもしれないが、冬にまた感染者が増えるのでは。南半球では患者が増え始めている」と危惧する。
 千代田区が設置した検査所では5月に入り、PCR検査の予約が定員に達した。山崎崇地域保健課長は「検査数が落ち着き始めたという現場の状況があってはじめて、解除を考えられるのではないか」と話す。中央区の保健所にも、連日100件ほどの問い合わせがある。他部署や都からの応援を得て、なんとか対応している状況だ。山本光昭所長は「いま解除されたら、また振り出しに戻ってしまう可能性がある」。
北海道では、「第1波」超える「第2波」
 いち早く独自の「緊急事態宣言」を打ち出し、新型コロナウイルスの感染拡大を抑え込んだはずの北海道には、感染拡大の「第2波」が襲っている。2月末からの3週間の外出自粛を解除し、日常生活に戻ろうとしたら、ふたたび感染者が増加。「第1波」を超える波が押し寄せている。
 北海道は2月下旬、累計の感染者数が全国最多となっていた。2月28日から道民に週末の外出自粛を求めたが、3月19日には「爆発的な感染拡大は回避された」(鈴木直道知事)として解除した。3月下旬~4月初旬には新たな感染者がゼロか1桁に減っていた。
 ところが4月上旬から再び感染者数が増え始めた。23日には1日あたりの感染者数が45人と過去最多を更新した。これは、「第1波」の最多人数の3倍にあたる。
 国立感染症研究所が感染者のウイルスの全遺伝情報(ゲノム)配列の違いを調査したところ、北海道の第1波の時期は、国内で中国由来のウイルスの感染拡大があったことをうかがわせるという。多くの中国人観光客が訪れた「さっぽろ雪まつり」(1月31日~2月11日)とも重なる。
 一方、4月中旬以降の第2波の時期は欧州由来のウイルスが中心とみられるという。実際、このころに東京などからの訪問者の感染確認が増え、札幌市は「本州から入ってきている」とみている。鈴木知事は赤羽一嘉国土交通相羽田空港で搭乗客の検温を実施するように電話で直談判したほか、新千歳空港での検温も開始した。
 札幌では感染経路不明の患者が7割を超える日もある。鈴木知事は「我が国では都市封鎖はできないが、それに相当する行動自粛が、いま必要だ」(4月30日の会見)と訴えている。(松尾一郎)