以下、朝日新聞デジタル版(2020年7月29日 14時26分)から。
広島への原爆投下後に降った「黒い雨」によって健康被害を受けたとして、広島市や県に対し、被爆者健康手帳の交付などを求めた訴訟の判決の言い渡しが29日、広島地裁であった。高島義行裁判長は、原告側の主張を認め、手帳の交付を命じた。黒い雨をめぐる司法判断は初めて。
国は激しく降ったとされる大雨地域に限って援護の対象としてきたが、それ以外の地域の人に手帳の交付を認める今回の司法判断は、戦後75年の節目に、国の援護行政のあり方を厳しく問うものといえる。
原告となった84人(遺族9人含む)は原爆投下時、生後4カ月~21歳。援護の対象とはならない「小雨地域」や降雨地域の外にいたとされる人たちだ。
この訴訟で、主な争点は二つ。一つは、原告らが被爆者援護法の「被爆者」と認められるかどうかだ。
同法は、直接被爆した人や、原爆投下後に広島市に入った人など「被爆者」を四つに分類(1号~4号)。該当すれば被爆者健康手帳が交付され、医療費の自己負担分がなくなり各種手当も支給される。国は、黒い雨の降雨地域の人を爆心地周辺など一部地域を除き、4分類のいずれにもあたらないとしつつ、激しく降った「大雨地域」に限り援護対象としてきた。
その仕組みはこうだ。大雨地域を「特例区域」に指定し、その居住者を無料で健康診断を受けられる「受診者」と扱い、がんなどの特定疾病がみつかれば手帳を交付する。「きりかえ」と呼ばれる制度だ。
原告らは、気象専門家らの論文などをもとに、黒い雨が実際に降った範囲は国が降雨域とする大雨・小雨地域より広いと主張。黒い雨を浴びた「外部被曝(ひばく)」や放射能汚染された農作物などを体内に取り込んだ「内部被曝」を受けたとする。
そのうえで、4分類のうち「放射能の影響を受けるような事情の下にあった者」(3号被爆者)だとして、手帳の申請を拒んだ広島市や広島県を相手に拒否処分の違法を主張し、手帳の交付などを求める。
対して、被告側(国も訴訟参加)は原告側が引用する専門家の論文は正確性に欠けるなどと反論。原告らが黒い雨を浴びた客観的な証拠はなく、浴びたとしても健康被害を起こすほど高濃度な放射性物質が含まれた根拠もないとする。
二つ目の注目点は、3号被爆者と認めなくても、大雨地域と同様、小雨地域などの原告も援護対象に含めるかどうかだ。
原告側は、国の大雨・小雨の線引きの根拠とされる1945年の気象技師らの調査の範囲は不十分だとして、原告らに対し大雨地域の居住者と同様、少なくとも無料で健康診断を受けられるようにすべきだとする。
一方、被告側は大雨地域に限るのは、政策的判断による暫定的な措置として裁量の範囲と反論していた。(比嘉展玖)