「船体が二つに分断、油再び流出か モーリシャス座礁」

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 以下、朝日新聞デジタル版(2020年8月17日 22時00分)から。

 インド洋の島国モーリシャス座礁した日本企業の大型貨物船の船体が15日、二つに割れた。船内に残っていた油の一部が再び流出したとみられている。船体の処分は困難が予想される。現地では日本側に対し、失われた環境の回復まで長期的な取り組みを求める声が上がっている。

 高波などの影響で船体に亀裂が入っていた貨物船が、二つに分断したのは15日午後。周辺の青い海面が黒くにじみ出した。地元政府当局などは、油の拡散を防ぐためにオイルフェンスを設置していたが、日本から派遣されている国際緊急援助隊は翌16日朝、約1・5キロ離れた浜辺に黒色の油が新たに流れ着いているのを確認した。
 船の所有者の長鋪(ながしき)汽船(岡山県)などによると、今後、船の前方部分は、海岸付近への汚染などを避けるため、他の船で沖合に引いていく予定だ。エンジン室などがある後方部分は、少量の油が残っており、引き揚げも難しく、現地政府などと協議して対応を決めるという。
 貨物船は7月25日に座礁した際、約4千トンの燃料油を積んでいた。8月6日になって、そのうちの約千トンが破損したタンクから海上に流出したが、12日までに残りのほぼ全てを回収したとしていた。分断後に流れ出た油は最大で数十トン程度とみられる。
 これまでに油が流れついたのは、小魚や野鳥などの貴重な生物が生息する地区。マングローブ林に付着した油の除去は難航し、回収時期は見通せていない。座礁現場から10キロ先にも油は流れ着き、油を吸って死んだ魚も出ており、影響は広範囲に及んでいる。


原因究明や賠償課題に 現地で政府批判も


 貨物船は長鋪汽船が船主で、大手海運会社の商船三井がチャーターして運航していた。船籍はパナマで、船にはインド人船長のほかにスリランカやフィリピン人の計20人が乗っていた。
 商船三井は9日の記者会見で、座礁の原因について「高波や強風で浅瀬に近づいた可能性がある」と推測していたが、地元紙レクスプレスは13日、貨物船の複数の船員が地元警察当局の調べに、WiFiに接続するために島に近づいたなどと供述していると報じた。警察当局は航海日誌や交信記録なども押収し、慎重に調べを進める方針だ。
 座礁事故後に油の流出を防げなかった理由について、両社は事故後にサルベージ会社に要請し、船の浮上や燃料油の流出を避けようと動いたが、高波などで難航したと説明している。対応が後手に回ったことに、現地では政府を批判する声も上がり始めた。
 賠償についても課題は多い。地元政府は、船主として事故の責任を負う長鋪汽船に対して賠償を求めており、同社も「適用される法に基づき誠意を持って対応していく」としている。
 長鋪汽船が加入する日本船主責任相互保険組合によると、油流出の被害に関する賠償は最大10億ドル(約1千億円)まで保険で支払うことができる。ただ国際条約では、船主を守るため賠償額に上限を定める仕組みがあり、今回の場合、規定上、約20億円を超える賠償額が請求された場合は、現地の裁判所の判断をあおぐことになる。環境や観光業への被害額は算定も難しく、支払いまでに数年かかる可能性が高い。
 貨物船の運航には多くの利害関係者がからむため、責任があいまいにならないよう、事故の責任はすべて船主が負うことが国際条約で定められている。商船三井には法的な賠償責任はないという。
 現地NGO「DIS―MOI」のビジャイ・ナライド氏は「生態系や住民への被害の全容はまだ分かっておらず、影響は何年も続くだろう。日本企業側には短期的なものだけでなく、長期的な被害も含めた補償や支援を考えてほしい」と訴えた。
 日本政府は17日、現地入りしている国際緊急援助隊の6人に加えて、環境省職員や国立環境研究所の研究者ら7人を追加派遣することを決めた。海岸に漂着した燃料油への対処と、漂着地域の生態系への影響の把握を支援する。(石原孝=ヨハネスブルク高橋尚之、水戸部六美)