以下、朝日新聞デジタル版(2020/1/18 9:00)から。
中東海域への自衛隊派遣をめぐる、国会の閉会中審査が17日、衆参両院の委員会で行われた。昨年12月に閣議決定し、海自の哨戒機が活動に向けてすでに出国しているが、国会での実質審議は今回が初めて。野党を中心に政府の姿勢に批判が噴出し、派遣の意義や自衛隊員の安全確保についても改めて疑問や懸念が相次いだ。
「国会の議論を非常に軽視しているのではないか」。17日午前の衆院安全保障委員会。立憲民主党の本多平直氏は、河野太郎防衛相にこう詰め寄った。
この日、衆参の委員会で茂木敏充外相も出席して計5時間、派遣をめぐる質疑が行われた。日本関係船舶の安全確保のための情報収集を目的として、政府が中東海域への派遣検討を表明したのは昨年10月。昨秋からの臨時国会では、「内容は検討中」として詳しい説明を避け続け、派遣を閣議決定したのは閉会後の12月27日だった。
すでに空からの情報収集にあたる海自のP3C哨戒機2機は今月11日に出国。20日から活動を始める予定だが、今回が国会での初めての実質審議となる。委員会では「国会軽視」などとの批判が相次ぎ、河野氏は「今回の閉会中審査をはじめ、しっかりと説明をしてまいりたい」と釈明した。
さらに、防衛省設置法に基づく「調査・研究」を法的根拠とする今回の派遣に改めて疑問が噴出した。
政府は、不測の事態になれば自衛隊法に基づく海上警備行動を発令して対処する方針で、限定的とはいえ、武器の使用も許される。しかし、自民党の中谷元・元防衛相は海警行動を発令しても、武器使用は正当防衛や緊急避難など必要最小限にとどまる点を指摘。「現場ができることを定める特別措置法を制定すべきだ」と求めた。また、今回の活動海域に日本関係船舶が多く航行するペルシャ湾やホルムズ海峡が含まれていないことを踏まえ、「(情報収集の)地域設定は何が根拠なのか」などと、そもそもの派遣の意義を問う声もあった。
これに対して、政府側は「新法の検討が必要だという場面になれば、当然検討する」とする一方、「中東情勢の緊張の高まりを考えると情報収集の強化は必要だ」と、従来の答弁を繰り返すにとどまった。
この日の質疑では、「中東情勢は急変する可能性がある」などと先行きの不透明感を危惧する声も相次いだ。
これに対し、河野氏は「米イランの間で(現在は)武力行使は行われていない」と主張。「これ以上、(事態は)エスカレーションはしないだろうというのが現在の状況判断だ」とし、「自衛隊が武力紛争に巻き込まれる状況ではない」と繰り返した。
政府がことさら情勢の安定を訴えるのは、派遣の正当性を確保するためだ。そもそも政府は今回の「調査・研究」の派遣について「実力の行使を伴うようなものではない」(菅義偉官房長官)と説明してきた。
情勢が悪化すれば派遣方針の見直しが必要になり、専守防衛を定めた憲法で禁止された武力行使を迫られるような事態に遭遇する危険性さえ否定できなくなるからだ。
さらに委員会では、自衛隊が中東情勢をめぐって米国と情報共有することをめぐり、共産党の赤嶺政賢衆院議員が米国の武力行使の判断材料になる可能性を指摘。「イランから見れば敵対行為になる」と派遣中止を求めたが、河野氏はこう述べるにとどまった。「提供するのは航行する船舶の種類、速度など一般的な情報。直ちに軍事行動に使えるものではない」
自衛隊幹部「現場、判断に迷う場面も」
今回の中東派遣では、海自のP3C哨戒機に続いて、2月には護衛艦1隻が派遣される予定だ。自衛隊の現場でとりわけ懸念が強いのが、不測の事態が起きた場合の対応だ。
防衛相が海警行動を発令した場合でも国際法上の原則として、不審船への武器使用や進路の割り込みなど、実力行使を伴う船舶防護ができる対象は日本船籍に限られる。中東海域を通る日本関係船は多いが、大半は外国船籍だ。外国船籍の場合、日本の会社の運航であっても、日本人が乗っていても実力行使で防護することはできない。可能なのは、船を寄せることでの牽制(けんせい)や無線での警告程度だ。自衛隊幹部は「目の前で船が襲われているのに手を出せない恐れもある」と漏らす。
不審船への対応も難しい。国家の軍なのか、武装集団、テロリストなのかで対応は異なるからだ。閉会中審査でも「外見的な区別ができるのか」との指摘があった。防衛省は、想定されるケースごとに取れる行動をまとめた部隊行動基準(ROE)を準備するが、「現場が判断に迷う場面が出てくるのでは」(自衛隊幹部)との懸念もある。(山下龍一、伊藤嘉孝)