以下、朝日新聞デジタル版(2020/12/3 14:00)から。
年をとれば誰でも心身が衰え、できることが減っていく。マイナスにとらえがちなこの老化現象をユーモアを交え、前向きに捉えたのが、1998年刊行の赤瀬川原平『老人力』だった。あれから20年余。「人生100年時代」とされ、高齢者も働く機運が高まる今、「老人力」の持つ意味はどこへ向かおうとしているのか。
役立つわけではない。美とも違う。でも不思議な面白さをたたえ、本質が潜む――。マンホールのふたや立て看板、植木鉢など身の回りの雑多なものに目をこらしてきた「路上観察学会」のベトナム合宿で、1995年のある日、老人力は発見された。
第一発見者は建築史家・建築家の藤森照信さん(74)とイラストレーター南伸坊さん(73)。藤森さんによれば、物忘れが増えてきた互いの行状を話すうち、日頃「ボケ老人」と親しみをこめて呼ぶ一回り上の赤瀬川原平の話題で盛り上がり、そうだ、あのたたずまいを「力」として認定しようと一致した。
「ダメな味わい」を生みだす力
「それはいい」報告を受けた赤瀬川はうれしそうに一言。その後あちこちで原稿を書き、ベストセラーとなったのが、朱色の装丁がめでたさを醸し出し印象的だった、この一冊である。
(後略)
(藤生京子)