以下、朝日新聞デジタル版(2021/5/19 18:30)から。
新型コロナの収束が見通せない中、東京五輪・パラリンピックの実現に慎重な世論が広がっている。
「安全・安心な大会運営を行っていく」。東京五輪の開催をめぐる最新の世論調査の結果について17日の記者会見で問われた加藤勝信官房長官は、安心や安全という言葉を4度も繰り返し、大会の実現に理解を求めた。
朝日新聞の15、16日の世論調査では、五輪を「再び延期」「中止」の合計が83%に上り、前月から14ポイント増えた。開会式まで2カ月余りとなったが、五輪への逆風は強まるばかりだ。
だが、この民意を前にしても、菅政権は「五輪はやる。いささかの揺らぎもない」(官邸幹部)、「反対の声があっても、いかにやるかを考えていく」(首相周辺)と、歩みを止める様子はうかがえない。首相が五輪を「コロナに打ち勝った証し」と位置づけている以上、中止は政権のコロナ対応の失敗と受け取られかねない。首相の責任論に発展する可能性も恐れる。
ただ、政権中枢を支配する強硬論も、その内情をみると変化が生じつつある。
「当初は政権運営を好転させる想定だった。いまは五輪がマイナスになりかねない。誤算だ」。首相周辺は、五輪を取り巻く世論に悲痛な声を上げる。
通常国会で政策の実行力を示し、夏の五輪の成功を記念碑として打ち立て、衆院解散・総選挙で政権の継続を国民に問う――。もともと首相らが描いていたそんなシナリオは、猛威を振るうコロナ禍のもとで、もはやほころびが隠せない。五輪の実現を危ぶむ世論を置き去りに突き進めば、政権の浮揚どころか、逆に批判を招きかねない。
五輪実現を最優先する政権の方針は、政策判断にも影響を及ぼす。首相周辺は「五輪を考えると、緊急事態宣言をこれ以上延長することは難しい」と、期限の5月末で東京の宣言を解除したい考え。様々な制限がかかる中でスムーズに大会の準備を進めるのは難しいうえ、国内外の世論にさらなるマイナスイメージを与えるとみるからだ。
ただ、感染状況が十分に改善しないまま宣言を解除すれば、2度目の宣言の時と同様にすぐに感染が再拡大する可能性もある。
首相に近い官邸幹部はワクチン接種の進展に期待を寄せ、「コロナがアンダーコントロールになれば世論も変わる」との見方を示す。一方、首相周辺は「五輪は開会すれば、パラリンピックが閉幕する9月までやめることができない」と指摘。万一、期間中に医療体制が逼迫(ひっぱく)するような事態に陥れば「下手したら下手をする」と、政権の足もとが崩れかねないと危惧する。
与党内では、徐々に浮足立つ動きが出ている。閣僚経験者は「宣言が延長されたら五輪は無理だろう」。自民党幹部は「6月に五輪が中止になれば、その勢いで衆院を解散すればいい。大負けはしないだろう」という。
「五輪中止」の可能性を政権中枢はどう考えているのか。首相に近い閣僚は「いま、そこまで頭が回っている人はいない」と語る。(石井潤一郎、小野太郎)