ジェリー・ガルシアの"How Sweet It Is"の演奏に酔いしれる

How Sweet It Is(1997)

 昼寝をして、夕方の5時ごろ眼を覚ます。軽くシャワーを浴び、バスでBroadwayへ出かける。Market st.、Stockton st.を通り、Columbus Ave.とぶつかると、少し行き過ぎのようで、多少歩いたら、Broadwayに出た。すぐ先が海だ。サンフランシスコのBroadwayは、ノースビーチにある。ノースビーチは、いわずと知れたpornography発祥の地。格別詳しいわけではないが、カリフォルニアはポルノで有名のところだ。ちょっとした新宿という感じもする。ノースビーチを歩けば、いつものようにお兄さんに呼び止められるが、日本人のお客さんも多いのか、日本語でたまに呼びとめられることもある。それらの呼びかけを無視して、お目当てのThe Stone*1へ。
 会場に着くと、外でヒッピーまがいの男女がたくさん列をなしている。Jerry Garcia率いるGrateful Deadのコンサートを待っている客層に、まさにぴったりの方々だ。「この列はジェリー・ガルシアの券を買う列なのか」と聞こうとしたが、面倒なので、待っている人の話に耳を傾けると、券を持っている奴も持っていない奴も同じ列だと話していたので黙って並んでいた。途中、前の青年がダッシュして戻ってくると、汚い券らしきものを持っている。横のお兄さんが、「おっ、それどうしたんだ」と聞くと、「前で買ってきた。この列は、券を持っている奴の列。左に券を買う列がある」という。横のお兄さんと一緒に前の方に並びに行くことにした。
 すると、たしかに前でチケットを売っている。チケットは1枚$7.50。IDが必要で、21歳以上でないとダメということだった。*2私はパスポートを見せて、OK。券を手に入れて、横のお兄さんと元の列に戻ると、”Strange process?”(「変なプロセスだね」)と言うので、「そうね」と、どうでもいいような返答をした。BASSでチケットを売らせないJerry Garcia。まさに商業主義に毒されていないJerry Garciaのコンサートらしい。Grateful Deadの真骨頂だろう。
 隣のヒッピーまがいの子は、自分は21歳になっていないので、どうしようと困った顔をしている。横のお兄さんが同情して、代わりに買ってきてやろうと、かなり親切だった。
 夜の7時30分に、ようやく入場。
 The Stoneは、やたら暗い、穴倉のようなハコだった。商業主義に毒されていないといえば聞こえはよいが、日本の大学の学園祭のようなアマチュア的な怪しげな雰囲気がある。ステージの前に敷物がしてあり、四角く区切られている場所にはテーブルが置かれていない。その四角い敷物の周囲に丸テーブルが置かれている。そのうちの一つに座る。
 gigを待っている間、小瓶のビールは1本、$1.75で、ビールを結局2本。1時間待って、8時30分にようやく幕が開いた。
 偶然だが、前座は、なんとDavid Crosby のときと同じ前座だった。下手ではないが、技術だけのグループだから、飽きる。前座は9時30分に終わり、再度休憩。なかなかお目当てのJerry Garciaは登場しない。
 仕方がないので、whisky and water(水割り)を頼み、また1時間待たされる。
 10時30分になって、やっとJerry Garciaの登場。すると、ステージ前の敷物のところに、客がわっと集まり、踊りだした。係員が制止するかと思いきや、その気配が全くない。
 Jerry Garciaの一曲目は、"How Sweet It Is (To Be Loved By You)"。
 いわずと知れたHolland/ DozierのMotown R&Bだ。Marvin Gayeのオリジナルだが、James Taylorなどもカバーしている。これがとてもいい感じで演奏される*3。観客のみなさんが立って踊っているため、Jerry Garciaの顔も全く見えない。三曲目から、私もその集団の中に飛び込みことにした。
 人ごみの中であまり動けなかったが、踊りながら見た、赤いスポットライトの中でのJerry Garciaの演奏は見事だった。これも「離」の段階。抱えているギターの演奏スタイルの軽いこと、軽いこと。身体も全く動かさないのに、すごい音が出てくる。こけおどしは全くなし。淡々としていて、それでいて凄い迫力。1時間以上踊り続け、その間、Jをすすめられたが、この演奏にそんなものはいらない。
 ワンステージが終了し、また休憩。どれくらいの休憩になるのかわからないが、1時間の休憩となった。休憩も、カリフォルニアらしく、laid-backしている。
 夜中の12時40分から、またステージが始まる。Bob Dylanの"Knockin' On Heaven’s Door"、"Tangled Up in Blue"など、1時間、演奏してくれる。
 隣にいる大男がBob Dylanがどうのこうの、Jerry Garciaがどうのこうの、「火はあるか」と、ぶつぶつ私に話しかけてくる。前の痩せた男も、「ビール飲むか」「J、吸うか」と、話しかけてくる。私の横の大男も、前の痩せた男も、かなり酔っ払っている(stoned)。人の良さそうな人たちで、いろいろとすすめてくれたが、面倒だ。回し飲みが当たり前で、あちこちやっているが、私の趣味ではない。はっきり言って気持ち悪いので、”No, thanks.”と丁重にお断り続ける。
 最後は、倒れたり、眠ったり、日本の酔っ払いおじさんと変わらない。人がいいのはよいけれど、アメリカ合州国はどうなるのかしらと、人事ながら頭の片隅で思う。
 でも、延々素晴らしい演奏をするJerry Garciaにはまいりました。Grateful Deadの音楽は、大人しく静かに聴く音楽ではない。これは踊る音楽である。発音もよくメッセージもよく伝わった。
 コンサートが終わったのは、真夜中の2時。帰り道、ハンバーガー屋で買ったチーズバーガーをパクつきながら、幸せな気分で帰宅をした*4

*1:http://www.rockandrollroadmap.com/places/where-they-played/san-francisco-area/the-stone

*2:21歳でないとダメというのは、The Stoneは、酒を出し、夜中の2時ごろまでやっているからなのだろう。

*3:Jerry Garciaの"How Sweet It Is"の演奏があまりにも良かったので、このあと、ずっと録音を探し続けたが見つけることができなかった。後年、1997年にこのブログのトップの画像にあるCD"How Sweet It Is"を入手したが、このCDの演奏は私がThe Stoneで聴いたものと比べると比較にならないほど感動的な演奏ではなかった。

*4:この日のセットリストは以下の通り。http://www.setlist.fm/setlist/jerry-garcia-band/1981/the-stone-san-francisco-ca-2bdd0832.html。セットリストだけではなく、当日の演奏でないのも相当まじっているようだが、当時のライブ演奏を彷彿とさせる動画クリップにアクセスできることは驚きというほかない。インターネット時代に感謝するほかない。