ベニスビーチまでサイクリングをしてみた

延々と続くサイクリング道路

 ガレージに自転車が数台置いてあるというので、自転車を一台借りることにした。
 最近家族は全く乗っていないというので、どの自転車も空気が抜けているようだ。だから、タイヤに空気を入れることから準備を始めないといけない。
 朝、家族が学校や仕事場に出かけてから、チーズとパンで軽く朝食を済ませ、ダイニングから地下室に抜ける階段を下りて、ガレージのドアを開け、シャッターを開閉するボタンを押すと、シャッターが開き、外の陽がさし込んできた。
 自転車は、ロードレーサーが2台。マウンテンバイクだが、ATBよりももっと厚いタイヤの奴が一台。子供用の自転車が数台置いてあり、自転車用のヘルメットもあちこちに散乱していた。
 ここの家はお父さんのトニー(仮名)がサッカーのコーチをしていて、子どももサッカーチームに入っているようだが、機械の空気入れが壁にあった。
 説明書きによると、ボールや自転車のタイアもいけるようだが、自転車用のアダプターが見つからない。
 機械の空気入れは残念ながら断念して、携帯用空気入れが見つかったので、これで空気を入れてみた。携帯用空気入れでもよく空気が入るので、全く問題はない。自転車で遠出する際は、この携帯用空気入れが役立つだろう。念のためにこいつを今日のポタリング用に持参することにした。
 あとは、ヘルメットを選んで準備完了。
 水分補給のためのボトルがあるといいのだが、自分で探し出せるわけもないので、自動販売機や店で何か飲み物を補給することにしよう。
 ということで、ロサンゼルスで初めて、サイクリングである。
 ジェニーの家から海岸までは坂道が多いので、このぶっといタイアだと、上りが結構きつい。
 閑静な住宅地と、車がガンガン通る大きな通りを抜けると、素晴らしい住宅街になる。そこを通りぬけると、海岸だ。
 海岸に出れば、前に書いたように、歩行者専用の舗装道路のとなりに自転車専用道路がある。この自転車専用道路を走るために、坂道を越えてきたわけだ。
 さて今日のツーリング計画は、マンハッタンビーチから海岸線沿いに北上し、ロサンゼルス国際空港を右に見ながら、さらに北上し、ベニスビーチ(Venice Beach)まで行く予定である。
 犬の散歩に来ている女性がベンチで休んでいたので、「ベニスビーチまではどれくらいですか」と聞くと、「正確な距離はわからないけど、10マイルから15マイルくらいじゃないかしら。結構、遠いわよ」という。10マイルなら16キロで、往復32キロほどのツーリングになる。
 32キロという距離は、自転車乗りにとって、それほどの距離ではない。
 ツールドフランスばりなら、自転車でも時速50キロなんて話になるが、これは別世界の話。ただ、怠惰なバイカーであっても、平坦な道なら、時速20キロくらいで楽に走れる。
 問題は、スポーティな自転車かどうかということと、もっと肝心なことは、アップダウンがどれほどあるかということだ。
 少々このぶっといタイアが気になるが、海岸線上だからアップダウンもそれほどあるまいと、たかをくくって、私はベニスビーチをめざして北上した。
 このサイクリング道路はいい。
 まず車が絶対に入ってこないこと。これが何といっても素晴らしい。
 それから、ロードレーサーで一人で、あるいは二人で、あるいは三人くらいで走っている本格派もいるけれど、どちらかといえば、フィットネス派、さらにお楽しみ派の方が多いことが素晴らしい。
 つまり私の言いたいことは、運動選手専用ではなくて、市民のための自転車道路になっているということだ。
 それにしてもこちらのフィットネス派は結構早い。というよりも、私が遅すぎるのだが、一つには、私のいでたちのせいもある。
 カメラや空気入れ、着替えなどが必要なので、バックパックをしょっていること。それから、上半身は半袖だが、下がジーンズであること。それからなんといっても、この自転車のタイアが太いことが主な原因である。
 海岸線は単調でもあるが、道路はくねっていることもあるし、ところどころにトイレと自動販売機が置いてあるので、エイドステーション的には、なんら問題がない。
 ロサンゼルス国際空港近くでは、飛行機がバンバン飛んでいる。飛行機を頭上に見ながら、サイクリングをすることになる。
 かなり進んで、ベニスビーチ手前に橋があり、そこを渡るとマリーナと呼ばれるハーバーに出た。
 この湾を内陸部に抜ける自転車道路はすごかった。左右が海で、そこを自転車道路だけがまっすぐに伸びているのだ。自転車優先の思想がまざまざと実感できる素晴らしい道路だった。
 そこを抜けて、UCLA所有のマリーン施設も抜けると、レストランが建ち並ぶハーバーに着いた。
 さらにそこを抜けると、ヨットがたくさん係留されているマリーナに着き、そこをさらに突き抜けると、芝生が敷き詰められた市内に出て、ワシントン通りに出る。
 このワシントン道路は、自動車道路だから、この自動車道路を自転車で走ることは、慣れていないと少し怖いと思う。自転車道路がペンキで区分けされて確保されているとはいえ、同じ道路を、自動車と自転車が平行して走ることになるからだ。
 それでも、自転車道路のスペースが確保されているから、自転車でも安心して走ることができる。実際、ワシントン道路にぶちあたったところを左折して、ワシントン道路に沿って進むとベニスビーチに出るのだが、ワシントン通りには自転車専用道路が確保されているので、自動車と一緒に走っても安心感があった。
 こうして、ベニスビーチに私は無事到着することができた。
http://www.laparks.org/venice/venice.htm
 走ってみた感想を一言で述べると、自転車後進国の日本とはえらい違いだということである。
 マンハッタンビーチから、海岸沿いは全く問題なく、自動車が入ってこないが、ベニスビーチに抜ける、自動車道路のワシントン通りですら、自転車道路が確保されている。一貫して、自転車の扱い方が素晴らしいのである。
 自転車で来ているせいで、残念ながらベニスビーチでゆったりと過ごすことはできなかったけれど、ベニスビーチの雰囲気はわかった。
 ベニスビーチの帰り、ワシントン通りの信号で、青になるのを他の自動車と一緒に待っていると、後から、バンを運転している黒人女性が「右に曲がれますか」と私に聞いてきた。
 右折道路を進もうとしている車を、私の自転車が邪魔していたのだ。
 私が横に寄って道をゆずると、「どうもありがとう」と、大変礼儀正しい。
 ますます私が、ロサンゼルスの自転車道路のファンになったことは言うまでもない。