熊井啓監督の「サンダカン八番娼館 望郷」を観た

サンダカン八番娼館 望郷

 できれば映画はたくさん見ようと思ってきたが、残念ながら時間が取れず、私自身これまでたくさんの映画を観ているわけではない。
 高校時代は、映画祭のようなものがあって、山田洋次監督の寅さんと、名画や古典と言われている洋画の二本立てで、毎年、学校で見せられていた。「戦艦ポチョムキン」なども、高校時代のこの映画祭で観たと思う。
 大学時代は、日本の名画をよく観るように努めたけれど、英語教師になってからは、洋画をよく見るようになった。
 それで、結局日本映画を観る機会が少ないのだが、最近はDVDがあるから、時間をつくっては観るようにしようと思っている。
 数日前に、熊井啓監督の訃報を聞いた。熊井啓監督の作品を私はほとんど観ていない。かすかに記憶に残っているのは、「黒部の太陽」くらいしかない。それで、今回、「忍ぶ川 [DVD]」と「サンダカン八番娼館 望郷 [DVD]」を初めて見てみた。
 「サンダカン八番娼館 望郷 [DVD]」は、言うまでもなく、山崎朋子原作の映画化だが、特筆すべきは、田中絹代さんの演技が光っていたことだ。高橋洋子さん、栗原小巻さんも好演していた。若い人たちに是非観てもらいたい一本である。
 映画の最後の場面で、からゆきさんたちの墓が日本に背を向けていると女性史研究者役の栗原小巻さんが発見する場面があるのだが、この場面で思い出したことがある。それは、昔読んだ本多勝一氏が書かれた「ルポルタージュの方法 (朝日文庫)」という本の中で、山崎朋子氏から学ぶべき点と学んではいけない点の両方を「『サンダカン……』の場合」という小見出しで書いている箇所の話だ。
 細かな紹介は省くけれど、お墓が日本に背を向けている理由は、本多氏によれば、「お墓は急な斜面に立っていて、もし日本の方へ向けたら石塔が地面を向くことになる。つまり墓地をここに作れば、いやでも日本と反対を向かざるをえない。だからこのお墓に限らず、隣りは中国人(華僑)墓地ですが、華僑も全部同じ方向を向いていて、結果的に中国に背を向けている。要するに、もともと斜面がそうなっているだけのことなんですね」という指摘だ。
 そうした点を除けば、熊井啓監督の「サンダカン八番娼館 望郷 [DVD]」は観るべき映画のひとつだろう。
 貧困から売春婦にさせられた年端もいかない女性たちの運命。からゆきさんは従軍慰安婦問題とは直接重複はしないかもしれないが、性奴隷(sex slaves)という点では同じだろう。性奴隷がいかに人権侵害であるのか、人格破壊であるのか、この映画で理解できる。従軍慰安婦問題で、軍の関与について、広義の狭義のと問題にした安倍首相は、「サンダカン八番娼館 望郷 [DVD]」を観たことがあるだろうか。安倍首相には是非見ていただきたい一本である。