井上ひさしさんの「ふかいことをおもしろく」を大変面白く読んだ

ふかいことをおもしろく

 本書は、2007年にテレビで放送された番組をもとに原稿を作成し、単行本化したものだという。
 字が大きくて簡単に読めるが、たいへん面白い。
 井上ひさしさんの父親のこと、母親のこと、戦争体験こと、笑いのこと、創作のこと、劇づくりのことなどがわかる入門書として本書はおすすめだ。
 とくに興味深かったのは、本とのつき合い方である。井上ひさしさんの言っていることは、ごく普通のことで、それほど目新しいことではないけれど、とことんやっているところが凄いところだ。
 「ふかいことをおもしろく―創作の原点 (100年インタビュー)」から少し引用する。

 僕の蔵書は二十万冊あまりといわれています。確かに、一日三十冊くらいのペースで本を読んでいますので、それくらいになるかもしれません。
 「忙しいのに、よくそんなに読めますね」と言われますが、本の読み方には自分なりの方法があるのです。もちろん、一冊一冊すべてをじっくり読んでいるわけではありません。
 たとえば、本で何かを調べるときには、まず目次を読んで、その本で著者が言いたいことを探ります。日本の学者は、たいてい結論を最後に持ってきますから、まず最後の方から見るのです。そこに思ったほどのことが書かれていなければ、その本は前半もそれほどではないだろうと勝手に考えます。逆に、一部を読んで面白かったら全体を読んでいきます。
 一読して心に残った本は、必ず表紙の裏に自分なりの索引みたいなものを書きこんで、ダイジェストを作ってしまいます。そうやって自分流にじっくり向き合いながら何度も繰り返し読む本と、見当をつけてバーッと読んでいく本があります。
 一日三十冊、四十冊読むのも難しくありません。それは、竹細工の職人さんが、たくさんの竹のなかから、ちょっとした感触などで「これならこういうモノを作ろう」と直感的に思うように、これは職業的な訓練ともいえるでしょうか。本から得たものをいったん体に入れ、年表を作ったり、いろいろ試行することが、僕の知識の元になり、書くということにも繋がっていくのです。体にどんどん情報がいくつか集まって、知識になります。その知識を集めて、今度は知恵を作っていくのです。

 山形県の川西町には井上ひさしさんの蔵書が寄贈された図書館「遅筆堂文庫」が、また山形市蔵王松ヶ丘には「シベールアリーナ&遅筆堂文庫山形館」があるという。 
 井上ひさしさんは、パソコンをあまり使わず、手書きで通した。井上ひさしさんの個性的な文字を思い出した。