「安保法案NO、学問の垣根越え」

amamu2015-07-16

 以下、朝日新聞デジタル版(2015年7月15日05時00分)から。

(ウォッチ安保国会)安保法案NO、学問の垣根越え 学者9766人が賛同、廃案要請 

 安全保障関連法案を審議する衆院特別委が15日の採決を決めるなか、法案に反対する人たちの輪が広がっている。14日には各地で反対集会が開かれ、専門分野を超えた「学者の会」の賛同人は1万人に達する勢いだ。採決を急ぐ安倍政権に疑問が高まっている。

 「安保関連法案に反対する学者の会」は、発起人にノーベル物理学賞益川敏英・京大名誉教授らが名を連ね、天文学や数学、宇宙物理学、医学といった理系分野から、音楽や演劇などの芸術分野まで、男女や年齢も様々な学者・研究者が賛同する。

 与党が採決の構えを見せるなかで賛同者は急増し、14日には9766人に達した。同日には思想家の内田樹氏や経済学者の間宮陽介氏ら14人が国会を訪れ、特別委員会の各党の理事にあてて「強行採決をせず、廃案にしてほしい」とする要請書を渡した。

 会が発足したのは、憲法審査会で憲法学者3人が法案を「違憲」と表明した後の6月15日。「学問と良識の名において、違憲性のある法案に断固として反対します」とする声明を出した。学問軽視への怒りと、第2次大戦での大学の戦争協力への猛省が原点にあるという。

 ■科学の成果、軍事利用の恐れ 益川敏英・京大名誉教授(物理学)

 「科学者だからこそ、戦争反対を自覚し、声を上げないといけない」。ノーベル物理学賞を受賞した京大名誉教授の益川敏英さん(75)。根底には「科学的な成果は、直接的ではなくても、数年後に軍事利用されてしまうことがある」という怖さがある。

 子や孫の暮らす社会を考えた時、自分の研究が戦争に利用されるのを反対しない科学者はいないと考える。一方で、「科学者は自分の研究が一番楽しい」。それを知っているからこそ、研究室にこもる学者たちに声を上げてもらいたいと願う。

 「自分の研究が戦争に利用されないためには、戦争自体をなくすしかない」

 名古屋大空襲では焼夷弾(しょういだん)が自宅の屋根を突き破って土間に落ちた。不発弾だったが、爆発していたら死んでいた。70年前の光景が今も脳裏に焼き付いている。

 改めて憲法を読み返してみた。「同盟を作って戦争ができるなんて書いていない」と憤る。

 改憲の手続きをとらずに、解釈の変更で押し通す姿勢も納得できない。「ぼくは『物理屋』だから、何でも理屈をつけたがる性格。最初から憲法を無視するのは理論的でない」

 安保闘争以来、政治を諦めがちだった若者が声を上げている。「これはないだろう」という怒りを共有している手応えがある。31日には、ともに国会前で抗議デモに立つつもりだという。

 ■事実と論理を軽視するな 海部宣男国立天文台名誉教授(天文学

 「科学は使われ方次第で社会にとんでもない悪影響を及ぼす。科学者はその自覚を持って平和を目指したい」。国立天文台名誉教授の海部宣男さん(71)はこう話す。

 憲法学者から異論が相次いでいるにもかかわらず、砂川判決を集団的自衛権の行使容認の根拠とする政権の姿に疑問を感じる。研究生活に入ってからは社会運動に関わったことはなかったが、「そうはいっていられない」と話す。

 「事実と論理を踏まえた上で次に進んでいくのは、憲法学であれ、自然科学であれ、学問の基本。それを軽視すれば道を誤る」

 天文学は世界的な協力で進んできた。だが、安倍政権下で中韓との関係が悪化し、研究協力が思うように進まない場面もでてきたという。「危機感を感じます」

 ■「原子力ムラ」と同じ空気 吉岡斉・九大院教授(科学技術史)

 呼びかけ人の一人で、東京電力福島第一原発事故政府事故調査・検証委員会のメンバーだった吉岡斉(ひとし)・九州大院教授(61)は「『原子力ムラ』は人類や社会の利益と関係なく、自分たちの都合で利権を拡大し、あの事故に至った。『安全保障ムラ』にも同じ空気を感じる」。

 専門の科学技術史から見ると、戦後、各国で宇宙や核など軍事関連の技術開発が盛んになった。その後も世界は軍縮に向かっているとは言えない。背景には原子力ムラ同様、どの国や組織にも「権限を拡大したい」という思いがあるとみる。

 「法案が成立したら次はもっと制約をなくそうと改憲論が勢いづく。その次は派兵、さらには核保有へとつながらないか心配だ」

 <主な呼びかけ人> 池内了・名古屋大名誉教授(宇宙物理学)、上野千鶴子・東大名誉教授(社会学)、小熊英二・慶大教授(歴史社会学)、久保亨・信州大教授(歴史学)、小林節・慶大名誉教授(憲法学)、酒井啓子千葉大教授(イラク政治)、島薗進上智大教授(宗教学)、永田和宏・京大名誉教授(細胞生物学)、浜矩子・同志社大教授(国際経済)