「(波聞風問)続くアベノミクス 円は本当に「安全通貨」か 原真人」

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 以下、朝日新聞デジタル版(2017年10月31日05時00分)から。

 総選挙で与党が大勝したことで、金融政策と財政をエンジン全開でふかすアベノミクスは続行される。安倍政権と日本銀行は危機対応のごときこの異例の経済政策をすでに4年半続けている。いったいいつまで続ける気なのか。

 企業はいま業績好調、雇用環境もよく、株価は歴史的な連騰を記録した。そのうえで日銀が国債や株を買い支え続ける意味は何なのか。

 やめられないのは、巨大な借金を抱える政府の問題先送りに都合がいいからだろう。こんな無理を永久に続けられはしない。

 過日インタビューした翁邦雄・元日銀金融研究所長によると、この政策の果てに何が起きるのか専門家でも十分にわかっていないという。「最悪のケースでは円が暴落するのではないかと心配です」(12日付本紙オピニオン面)

 いま「円暴落の恐れ」と言ってもまじめに受け取る人はいないかもしれない。リーマン・ショックでも、最近の北朝鮮ミサイル危機でも円は買われた。いまや有事の円買い、円は安全通貨とされる。

 「たしかに外国為替市場で円の信認は強すぎるくらい」と、みずほ銀行国際為替部の唐鎌大輔氏は話す。

 日銀がこれほどお札を刷りまくっていても円の価値は下がらず、むしろ安全通貨と言われる理由はいくつかある。まず日本は経常黒字国であり26年連続で世界最大の対外純資産国という安心感だ。さらに危機になると円買いが盛んになるのは、低金利の円を借りて外貨運用している投資家たちが、手じまいのため円を調達するからだと言われる。

 ところが日本では輸出産業を中心に円安志向が強く、円安のためならとヘリコプターマネーのような暴論も飛び出しやすい。日銀の極端な緩和策が受け入れられる背景にはそうした土壌もある。

 だが唐鎌氏も長期的に心配なのは円暴落リスクと言う。「日本が経常黒字のうちはいい。高齢化が進めば、日本もいずれは経常赤字になっていく。そのとき、円急落が始まる恐れがあります」

 日銀がお金を刷りまくり、政府が借金を積み上げ続ければ、いずれ投資家たちは円に愛想を尽かす。一斉に円が売られ日本の輸入物価は急騰。一気にインフレが進む――。食糧とエネルギーを輸入に頼っている日本で、そのシナリオは致命的でさえある。

 それでも安倍政権や日銀は当分大丈夫と高をくくっているのか。あるいは、そうなってもやむをえないとでも考えているのだろうか。結果的に政府の膨大な借金の実質負担が軽くなるのだから、と。

 「インフレ税」と呼ばれるこの問答無用で制御不能の国民負担に比べたら、消費増税の方がずっとマシだろう。少なくとも民主主義の下で、私たち自身が負担の規模や時期を選択できる。政権がそのための政治努力から逃げ、インフレ税の誘惑に逃げこんでいるとは思いたくないのだが。

 (はらまこと 編集委員