以下、朝日新聞デジタル版(2018年9月18日05時00分)から。
原真人氏がいうように、総裁選はまったくもって低調だ。内容ある政策論争がない。だが、それでよいはずがない。その一例が借金財政。
やるべきことをやらず、やらなくてよいことをやるアベコベ政治が安倍政治であると言われても仕方あるまい。
盛り上がりに欠ける自民党総裁選である。「安倍1強だから」などという理由で納得するわけにはいくまい。安倍晋三首相と石破茂元幹事長の論戦がなぜもどかしいか。それは財政の不都合な真実も現実的な未来図もまったく語られていないからではないか。
先週末の総裁選討論会で、首相はアベノミクスのもとで税収も雇用も増えたことを誇り、「(2回の)消費税延期も正しかった」と強調した。石破氏からは財政金融政策について強い批判はなかった。昨夏、内閣支持率が低迷したころ、自民党有志の反アベノミクス勉強会に出て「これから日本が迎える状況は極めて危機的。言うべきことを言わないのは自分の取るべきやり方ではない」と語っていた。あの迫力はどこへいったか。
日本はいまや敗戦時なみのひどい借金財政で巨額の財政赤字をたれ流し続けている。それを続けられるのは、日本銀行が大量の紙幣を(電子データ発行も含めて)刷りまくり、そのお金で政府の赤字を穴埋めしているからだ。さらに株価の高値安定も、日銀が巨額の資金を株式市場に供給し買い支えているおかげだ。
こんな政策がずっと続けられるなら納税者や投資家にとってこれほど楽なことはない。だがそんな打ち出の小づちは存在しない。実際はいつ財政が破綻(はたん)の坂道を転がり出してもおかしくないし、日銀資金の高げたを外せば株価が急落するのはまちがいない。
国民生活の運命がかかるこれほどの重大問題が、総裁選の論戦からすっぽり抜け落ちているのは驚くべきことだ。
楽観に楽観を重ねた政府の財政見通しを前提にすれば、そんなものかもしれない。消費税率を来秋、予定どおり10%に上げ、2025年度までに基礎的財政収支を何とか黒字にするという目標である。
その見通しが甘すぎることは経済同友会が経営者感覚ではじいた長期試算でわかる。10年以内に黒字化するには消費税率10%をさらに毎年1%幅ずつ上げる必要がある。30年後まで黒字を維持するには税率17〜22%まで上げなければならない。だから「消費税10%のあとの議論を早く始めよ」というのが、経済同友会の至極真っ当な主張だ。
朝日新聞の世論調査で総裁選で一番議論してほしいことを聞くと、社会保障(26%)、景気や雇用(23%)、財政再建や税制(15%)の順に多かった。国民は財政や社会保障の未来に不安を抱き、政治が向き合うことを求めている。
ところが総裁選を通じて、そうしたテーマはあいまいにしか語られない。だからなのか。2人が総裁にふさわしいという人はそれぞれ3〜4割いるものの、首相を支持する理由に「政策が評価できる」を挙げた人は全回答者の7%、石破氏にいたっては1%にすぎない。不都合な真実もふまえた本音の論戦を求める国民が、それを見せようとしない政治に発した、明らかな抗議の数字ではないか。
(はらまこと 編集委員)