「「今の自民、なあなあに見える」 総裁選遊説に聴衆は」

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 以下、朝日新聞デジタル版(2018年9月16日07時58分)から。

 自民党総裁選の地方遊説が15日、始まった。安倍晋三首相と石破茂元幹事長がこの総裁選で初めて、市民や党員に向けて直接考えを語った。しかし、議論が歓迎されないような閉塞(へいそく)感や、世論との隔たりも指摘される。遊説先の人たちはどう聴いたか。

オスプレイの話、全くでなかった」 佐賀

 15日夕、安倍、石破両氏は佐賀市中心部のJR佐賀駅前で演説会に臨んだ。安倍氏は「まっとうな経済を取り戻すことができた」と実績をアピール。石破氏は「もう一度地方に雇用と所得を取り戻す」と強調し、佐賀の観光産業の成功例などをたたえた。

 買い物帰りに足を止めた女性(60)は、安倍、石破両氏を見て「何の選挙だっけ?」。自民党の総裁選と知り最後まで聴かずに立ち去った。自民党国会議員の関係者は「盛り上がってはいないかな」と漏らす。

 「オスプレイの話が全く出なかった」。演説会を聞きに来た佐賀市議でノリ漁師の川崎直幸さん(68)は残念がった。県は今年8月、陸上自衛隊オスプレイ佐賀空港への配備計画を容認。1998年の開港以来、経営が厳しい県営空港。100億円を国から受ける条件をのんだ形だったが、地元では賛否が渦巻く。川崎さんは市議会で自民党会派に所属していたが、会派内で配備計画を容認する決議に賛成するよう求められ、昨年12月に離脱した。「漁師には反対が多く、県民にも賛否がある。自分の意見を曲げ、反対の声を上げなかったら議員生命に関わる」と思った。

 賛否両論があるのに、自民の地方議員から異論が聞こえてこないのが不思議だ。「今の自民の議員は、なあなあに見える。来年の統一地方選など、次の選挙で党に支援してもらうことしか考えていない」。川崎さんにはそう映る。

 防災やにぎわいづくりなど佐賀市のまちづくりに取り組むNPO地球市民の会」の事務局長の岩永清邦さん(35)は、安倍、石破両氏の演説に「貧困など地方の課題についてもっと議論を聞きたい。物足りなさがあった」と口にした。

 いま、活動の中で、子どもの貧困が喫緊の問題と気づいた。景気を語られても、佐賀でそれを実感する機会は少ない。「僕たちが見たいのは、難題について政治家たちが真面目に議論する姿なのに」

 演説会の終盤、石破氏が「恐ろしいのはただ一つ。国民の心が自民党から離れることだ」と力説すると、岩永さんはうなずいた。「自民党の議員たちが上ばかりみていれば市民の心は離れる。向くべきは上ではなく市民の方だ」(伊藤嘉孝)

「地方に目配り、どちらか?」 京都
 京都の演説会は正午から市内のホテルで開かれた。国会議員の圧倒的な「安倍支持」や、討論会の少なさから議論の低調さが指摘される中、会場に来た京都府京田辺市の女性(63)は「地方に目配りをしてくれるのはどちらなのか。もっと公開討論を開いてほしい」と言う。

 安倍氏は会場で「京都はまさに観光の中心地。成長の起爆剤にしていこうではありませんか」と持論の「観光立国」を主張。石破氏は、海外の観光客の消費が京都市内に偏っていると指摘。「もう一つの京都。舞鶴であり宮津であり伊根であり。そういう所にも伸びしろがある」と訴えた。

 3連休初日。JR京都駅前は国内外の観光客でごった返し、バスを待つ人たちが50メートルほどの列を作った。京都市には昨年、5362万人の観光客が訪れた。消費額は過去最高の1兆1268億円。2013年の1・6倍だ。

 だが、中心部・祇園でまちづくりに関わる奥田朋子さん(53)は「メリットなんて、ほとんどない」と言う。観光客が増え過ぎ、住民や商店主との摩擦が深刻化。結婚式前の撮影のためにカップルが私有地に入る、車の通行を妨げる……。安全を守れないと考え、昨年と今年、20年以上前から続いてきた夜桜のライトアップを中止にした。

 「観光客で盛り上がっているからいいだろうと考えるのは一面的な見方だ。その裏側の問題を見つめるきめ細かさがほしい」(阿部峻介)