以下、朝日新聞デジタル版(2018年9月24日05時00分)から。
安倍晋三首相が連続3選を果たした自民党総裁選の論戦は実質1週間足らず。米国で大統領選を取材したが、1年以上かけ、熾烈(しれつ)な舌戦の末に党の大統領候補を選び出す様を見て、民主主義のダイナミズムを感じた。制度が異なるとはいえ、総裁選はいかにも物足りなく、歯がゆい。
災害対応などで討論の場が削られ、挑戦者の石破茂元幹事長が選挙期間の延長を提案しても、首相は「政治空白を生む」と拒んだ。五つの派閥から支持を取り付けた首相が、討論会でぼろが出るのをよほど警戒したのだろう。
政権運営で「謙虚」を誓った首相だが、国会議員票と地方票の乖離(かいり)に関し、麻生太郎財務相から「選挙ってのは、勝てばいい」と地方票を軽視するかのような発言が早速飛び出した。
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総裁選は、総裁を選ぶだけでなく、自民党の政策の幅や活力を国民に示す場でもある。なのに安倍1強の下、有力と目された岸田文雄政調会長らが次々不出馬を決め、挑戦者は石破氏1人。党員はそんな党に閉塞(へいそく)感を覚え、安倍陣営の予想を覆したのに、いまだに自覚がないようだ。
とはいえ、わずか1人の挑戦者だが、総裁選を実施したことで首相の目標や課題も見えてきた。
首相は終始「戦後外交の総決算」を力説。対北朝鮮や、通商で対日圧力を強めるトランプ米大統領、「前提条件なしの平和条約」に突如言及したプーチン・ロシア大統領との交渉など、「八方塞がり」にしか見えないが、どう「総決算」しようというのか。
昨年は「日米は百%共にある」と蜜月を誇った首相も、今回は「国益を守り増進する観点から外交を行う」と予防線を張った。トランプ氏は「(通商で)米国と取引しなければ、大問題になると日本も認識している」と牽制(けんせい)、米メディアは自動車関税など次なる貿易戦争の標的は日本と報じる。今週の日米首脳会談は首相の言う「(米国に)物が言える関係になっている」のかを測る試金石になろう。
拉致問題では「私の使命。必ずやり遂げたい」と解決を約束したが糸口も見えない。
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読めないのが、首相が「総決算」でも例示した日ロ関係だ。プーチン発言の真意をいぶかる石破氏に、首相は「言葉からサインを受け取らなければならない。平和条約が必要との意欲が示された」と前向きにとらえ、年内の首脳会談が重要だと語った。強弁なのか、それとも脈があるのか。その動向も注視したい。
アベノミクスも揺らぐ。確かに、経済指標の一部は改善したが、世界的にも異例な長期にわたる「異次元」金融緩和で大企業は潤う一方、庶民は恩恵を感じず、財政再建の目標も、安倍政権後の「25年度」に5年先送りされた。
物価上昇目標も達成できず副作用が目立ち始め、さすがの首相も異次元緩和は「ずっとやっていいとは思っていない」と任期中に出口を探ると語ったが、容易ではない。
歴代最長に臨む3選はしたが、何をしたいのかよく見えない。外交も経済も問題を先送りし、目先の小利や数字を誇示し、今さえよければ将来のことは知らぬ、では困る。