「(時時刻刻)トランプ節に対抗、米紙一斉社説 報道の自由掲げ、400紙超が賛同」

amamu2018-08-18

 以下、朝日新聞デジタル版(2018年8月18日05時00分)から。
  

 自らに批判的なメディアを「国民の敵(The enemy of the people)」と執拗(しつよう)に攻撃するトランプ米大統領に対抗しようと、米国の多くの新聞が16日、報道の自由を訴える社説を一斉に掲げた。だが反発するトランプ氏は改めてメディアを批判した。民主主義の基本である「報道の自由」を軽視する最高権力者の姿勢は、米国民のメディア観にも影響を与えている。(ニューヨーク=鵜飼啓)

 一斉社説の取り組みは、有力紙ボストン・グローブ論説委員室が呼びかけた。同社によると、週刊紙など今後の掲載も含めて400紙以上が賛同しているという。

 「報道の自由」を共通のテーマとして、各社がそれぞれ書いた。ボストン・グローブ紙は「記者は敵ではない」と題し、「自由な報道機関を国営メディアに置き換えるのが、あらゆる腐敗した政権がまず着手することだ」「米国の偉大さは、権力者に真実を突きつける自由な報道機関に支えられている」などと訴えた。

 同紙でオピニオンなどを扱うアイデア部のアレックス・キングスバリー副部長は朝日新聞の取材に、「各社で歩調を合わせて社説を掲げることで、米国民に対して『民主主義にとって報道の自由は大切だ』と伝えたかった」と語った。他社からの反響は大きいという。「米国の記者の多くが、メディアを敵と位置づける大統領の言動を強く警戒していることを示した」

 今回の取り組みには、地方の主要紙であるダラス・モーニング・ニュース、デンバー・ポストなどのほか、小規模な新聞も多く加わった。賛同したニューヨーク・タイムズは、「気に入らない事実を『フェイク(偽)ニュース』とするのは民主主義の源泉を脅かす。記者を『国民の敵』と呼ぶのは危険の一言に尽きる」などと記した。

 新聞各社のアピールを、米政界も後押しした。米上院は16日、「報道機関は国民の敵ではない」などとする決議を、与野党問わず全会一致で採択した。

 ただ他の有力紙であるワシントン・ポストやウォールストリート・ジャーナルは参加しなかった。

 新聞各社が連携することで、トランプ氏や支持者が「不正直な報道機関に不当に批判されている」と受け止める恐れがあり、対立をあおるトランプ氏の思惑にはまってしまう、との見方もある。独立性を守るためと参加しなかった社もあった。ワシントン・ポストは「組織的な取り組みには加わらない」と同調しなかった理由を説明した。

 ■すぐに本人反論、追随する世論も

 新聞各社の一斉社説に対し、トランプ氏は16日朝、ツイッターで激しく反論した。「(ボストン)グローブがほかの新聞と《なれ合い》をしている」「《フェイクニュースのメディアは野党だ。》我々の偉大な国にとってとても良くない。《だが我々は勝ちつつある》」(《 》内は、原文ではアルファベットの大文字)

 自らの姿勢に異議を唱える存在を、ひとくくりに「国民の敵」とみなす。民主主義の否定に等しい発言だ。

 トランプ氏とメディアの対立は2016年の大統領選期間から続いている。

 女性蔑視や移民などへの不寛容な発言を繰り返す同氏を、米紙の多くは批判的に報道した。ネットメディア「ビジネス・インサイダー」によると、大統領選では240紙以上が対立候補だったクリントン氏を支持。トランプ氏を支持したのは19紙に過ぎなかった。

 トランプ氏の「エスタブリッシュメント(既得権層)」「エリート」批判は、メディアに対しても重ねられた。大統領に就任した後は、大手紙ニューヨーク・タイムズやCNNなど自身を批判的に報じる報道機関に「フェイク(偽)ニュース」とのレッテルを貼って逆襲。昨年2月には「フェイクニュースのメディアは米国民の敵だ」とツイートした。

 トランプ氏の攻撃は、米国民のメディア観にも次第に影響を与えつつある。

 調査会社イプソスが7日に発表した世論調査の結果によると、調査対象の85%が「米国の民主主義のために報道の自由は不可欠」と答える一方、「ほとんどの報道機関が公正な報道を心がけている」としたのは46%にとどまった。「報道機関は米国民の敵だ」と考える人は、共和党支持者で48%にのぼる。「大統領は悪い行いをした報道機関を閉鎖する権限を持つべきだ」との回答も26%あった。

 敵意が、記者に直接向けられるようにもなった。7月末にフロリダ州タンパで行われたトランプ氏の集会では、大勢の支持者がCNNの記者に罵声を浴びせた。この記者は今月2日のホワイトハウスの記者会見でサンダース報道官に「報道機関は国民の敵ではないと認めてほしい」と迫ったが回答を得られず、会見場から退出した。

 報道機関側は、こうした風潮が記者への身体的な危害などにつながりかねないと懸念を深める。ボストンのテレビ局などによると、ボストン・グローブ社に爆破予告があったという。

 ツイッターでは、一斉社説への賛否の書き込みが相次いだ。「報道の自由」というハッシュタグ(#FreePress)がついた投稿は「メディアは権力や不正と闘っている」「国民の敵ではない」と擁護。一方、「国民の敵」というハッシュタグ(#EnemyOfThePeople)を含む投稿の多くは「オバマ(前政権)支持者が政権を転覆させようとしている」などと否定的だった。