「取り上げた記者証返還を 米地裁、ホワイトハウスに命令」

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 以下、朝日新聞デジタル版(2018年11月17日01時46分)から。

 米CNNのジム・アコスタ記者がホワイトハウスでの会見でトランプ大統領と激しいやりとりとなり、記者証を取り上げられた問題で、ワシントンの連邦地裁は16日、アコスタ記者に記者証を暫定的に返還するよう命じる決定を出した。記者証を没収する手続きが不透明だと判断した。決定を覆されたトランプ氏は「礼儀正しさ」という言葉を持ち出し、記者会見のルールを作って「反トランプ」メディアを抑え込む意向だ。

 アコスタ氏は中間選挙翌日の7日にホワイトハウスであった記者会見で、中米から米国への移住を目指す「移民キャラバン」や、2年前の大統領選介入をめぐるロシア疑惑について繰り返し追及。トランプ氏は「もう十分だ」と質問を遮った。

 ホワイトハウスは、女性職員がアコスタ氏からマイクを取り上げようとした際、アコスタ氏が職員の手に触れたことを理由に、記者証を「期限無し」で取り上げた。

 これに対し、CNNは憲法に規定された報道の自由が侵害されたとし、記者証の返還を求めて13日に提訴。ふだんはトランプ氏を強く支援するFOXニュースを含むメディア13社がCNNを支持していた。

 裁判では、トランプ氏に記者をホワイトハウスから締め出す権限があるかどうかが焦点になっている。

 CNNは、トランプ氏が気に入らない報道や質問をアコスタ氏がしていることを理由に出入り禁止にすることは合衆国憲法の修正第1条の「報道の自由」に反すると強調。また、記者証を没収したことも「専横的で一貫性がなく、前例のない行為だ」と批判した。正当な法的続き無しに、財産や自由を奪うことは出来ないと定める修正第5条に反することも主張した。

 一方、ホワイトハウスは、アコスタ氏が職員に対して行った行為で争うことをせず、大統領には記者を締め出す権限があるなどと反論。アコスタ氏は記者証がなくてもテレビで記者会見を見たり、職員を電話で取材したりすることができるとし、CNNには記者証を持つ記者が他にも多くおり、業務に支障は無いと主張した。

 今回の地裁の判断は、アコスタ氏の記者証の取り扱いに関する一時的な措置で、争われた「報道の自由」についての判断を示さなかった。ただ、ホワイトハウスがいったん記者の取材を許可したなら、ホワイトハウス内も報道の自由が適用されると指摘した。

 そのうえで、記者証の没収を決める手続きについて、「政府は(記者証の没収を)誰が決めたのか説明できない。ミステリーのように判断が覆い隠されている」と述べ、アコスタ氏への記者証返還を命じる決定を出した。裁判が終わるにはまだ数週間かかる見通しだ。

 ジョージタウン法科大学院の「憲法の擁護と保護研究所」のジョナサン・バッカー弁護士は「今回の判断は『報道の自由』そのものではなく、修正第5条の法的な手続きを理由にしたものだ」と説明する。

 「しかし、記者証は『報道の自由』を規定する修正第1条に従事するためのものであり、ホワイトハウスで大統領にインタビューしたり、何が政権内で起きているのかを人々に知らせたりする自由を記者にもたらしている。その記者証を思いのままに、記者のどの行為が問題であるかを説明しないで没収することは、正当な権利を侵害すると判断したものだ」と語った。

 連邦地裁の決定を受けて、CNNは16日、「この結果に喜んでおり、近日中に完全な解決となることを期待している。CNNだけでなく、自由で強い、独立した米国の報道を支持してくれた皆さんに心から感謝している」とする声明を出した。

 一方、トランプ大統領は16日、記者団に「人は行儀良くしなければならない。ルールと規則を作っている。あなたたちは不公平に扱われていた。だって、あなた方の質問を中断する人がいたんだから」とまくしたてた。そのうえで「もしもあなたたちがルールと規則を聞かなかったら、裁判をやって我々が勝つだろう」と語った。

 トランプ氏はその後、FOXニュースの番組でも、アコスタ氏に記者証を返すことになった点について「たいしたことではない」と述べた。そして「裁判所が言っているのは、記者会見での行為に関するルールや規則を作らなければならない、ということだ。もし、彼(アコスタ氏)が行儀悪い振る舞いをするなら、次は彼を追い出し、記者会見を止めるだろう」と語った。

 また、トランプ氏は「ルールと規則とは何か」と問われると、「礼儀正しさのルールだ。何度も質問を繰り返すことは出来ない。会見室にはたくさんの記者がいる」と述べた。「礼儀正しさ」の名の下に作ったルールで、記者会見をコントロールする意向を示した。

 バッカー氏は「記者会見室はホワイトハウスにあり、記者会見での行為に関するルールを作ることは、特定の記者だけに適用するわけではないのならば、違憲とはならない。大統領がどういうルールを作り、どう運用するか注視する必要がある」と指摘する。(ワシントン=土佐茂生)