以下、朝日新聞デジタル版(2018年9月9日05時03分)から。
トランプ米大統領が7日、貿易をめぐる強硬姿勢をさらに鮮明にした。中国への高関税措置をすべての輸入品に広げる可能性に具体的に触れ、貿易協議を進める日本には露骨に「脅し」の発言を重ねた。11月の中間選挙に向けて支持固めを図る狙いとみられ、日本には農産物の市場開放などへの圧力が今後も強まりそうだ。
「私が望めば、さらに2670億ドル(約30兆円)分をすぐにでもかける準備がある」。トランプ氏は7日、大統領専用機のなかで中国への高関税措置の発動について記者団から問われると、こう冗舌に答えた。
米政権は、知的財産の侵害を理由にした対中高関税措置について、第1〜2弾として計500億ドル分の輸入品にすでに発動。トランプ氏は7日、2千億ドル分が対象の第3弾の発動を近く表明する可能性に触れた。
さらに、当初2千億ドル分と予告していた第4弾を2670億ドル分に引き上げる意向を示した。発言通り第4弾まで発動すれば、2017年で5千億ドルあまりに上る中国からの全輸入品に高関税がかかる規模だ。
日本については「貿易問題でオバマ政権と話そうとしなかった。報復されることもないし、自国は弱いから誰も何もしてこないと思っていたからだ」と主張。「相手が私になり、ディール(取引)がまとまらなければ大変なことになる、とわかっている」と述べた。
日米間では9月下旬に首脳会談や閣僚級協議「FFR」の2回目の会合を開く見通し。米国は牛肉などの関税引き下げや輸入拡大を迫るとみられ、自動車への高関税措置を圧力として使う公算も大きくなってきた。
北米自由貿易協定(NAFTA)の再交渉を進めるカナダには、車への高関税措置を「交渉のレバレッジ(てこ)に使う」と明言。「譲らなければ『車に関税をかけよう』と言うしかない」と話した。
「レバレッジ」はトランプ氏が好む言葉。1980年代の自著(邦題「トランプ自伝」)でも「自らの最大の強みをレバレッジとして、その強い立場から交渉する」のが「ディール」の眼目だと述べている。
しかし、互いに深く依存し合う現代の通商関係で、こうした戦術がうまくいくとは限らない。中国からの全輸入品などに高関税をかければ、価格上昇のしわ寄せは米消費者に及ぶ。
米アップルは米通商代表部(USTR)に宛てた5日付書簡で、第3弾の高関税措置は自社製品の値上げにつながるとの見方を示し、高関税措置の再考を求めた。課税対象に中国でつくっている腕時計型端末「アップルウォッチ」やパソコンの「マックミニ」などが含まれているためだ。
同社は書簡で「関税に関する懸念は、米国が最も打撃を受け、米国の成長と競争力を引き下げ、消費者が高い値段を払わざるをえなくなることだ」と指摘した。
中国は米側の高関税措置に同規模の報復を重ねており、今後も米側の圧力に対して引き下がる保証はない。
トランプ氏が中国からの全輸入品に高関税をかけることも辞さない姿勢を示したことについて、中国側は8日夕までに反応を示していない。ただ、商務省の高峰報道官は6日の定例会見で「米国が新たな追加関税措置を取るなら、中国は必要な対抗措置を取らざるを得ない」と改めて強調している。
トランプ氏は、元ポルノ女優らへの「口止め料」などをめぐる多くの不祥事を抱える。最近のワシントン・ポスト記者による内幕本の出版や政権幹部の告発が米紙に掲載されたことを機に政権内の混乱も目立っている。強硬姿勢の背景には政権批判をそらす狙いもありそうだ。(ワシントン=青山直篤、北京=福田直之)