以下、朝日新聞デジタル版(2020/1/9 20:45)から。
イランがイラクの米軍駐留基地にミサイル攻撃をしたことをめぐり、トランプ米大統領は8日、軍事的な報復ではなく経済制裁で対応する方針を表明した。イランの攻撃が限定的で、人的被害も出なかったことで、報復の連鎖が全面衝突につながるという最悪の事態は、いったん回避された。
ホワイトハウスで声明を発表したトランプ氏は、「米国人の死傷者はおらず、基地は最小限の被害で済んだ。米兵の驚くべき技術と勇気に敬意を表する」と胸を張った。
しかし、イラン側が意図的に、米側に被害が出ることを避けたフシもある。イラクには事前に攻撃を通知しており、米側にも伝わっていた。米メディアによると、米情報機関は偵察衛星やイラク側からの情報をもとに、標的となった基地を事前に特定し、駐留する米兵らを防空壕(ごう)などに避難させる指示が出されていた。
米東部時間の7日夜に起きた攻撃を受け、政権幹部はホワイトハウス地下のシチュエーションルーム(危機管理室)に集まった。トランプ氏と電話で話した上院議員はCNNに対し、米側に死者が出ていれば、イランの関連施設を攻撃する準備を進めていたと語った。
ただ、イランが放ったミサイルは十数発と、予想よりも少なかった。人的被害が少ない可能性が伝わり、トランプ氏は7日深夜、「すべては順調だ! 今のところ万事よし」とツイートした。
米軍がイスラム革命防衛隊のソレイマニ司令官を殺害したことへの報復としてミサイル攻撃をしたイランも、メッセージを送った。革命防衛隊幹部は「これは第1段階の攻撃にすぎない」などと激しい言葉を発したが、イランのザリフ外相は攻撃直後のツイートで報復を「完了した」と表現した。イラン政府関係者は朝日新聞の取材に「早期に象徴的な報復の必要があったが、米国も大規模な戦争は望んでいないという見通しがあった」と明かした。
攻撃から数時間後、米側の死者がいなかったことが確認され、軍事衝突の回避が決定的となった。米政府高官はCNNに「イランが引き下がった。我々も少しだけ引き下がる」と語った。
トランプ氏は直前まで声明の原稿に手を入れ、発表は予定より約30分遅れた。カメラの前では「イランは沈静化の方向に向かっているようだ。すべての関係者、そして世界にとって良いことだ」と述べた。(ワシントン=土佐茂生、渡辺丘、テヘラン=杉崎慎弥)