Aretha Franklin の ”I Never Loved a Man the Way I Love You” (1967)というアルバムの一曲目を飾る名曲 "Respect"。
"Respect"の作者はオーティス・レディング(Otis Redding)で、レディングのオリジナルなのだが、レディングのオリジナルヴァージョンが、稼いだ金を持ち帰る自分にたいする敬意を恋人に求める唄となっていて、まさに古い価値観を体現した個人的な唄であるの一方、当時の伝統的で男性の視点を女性の視点に変えてAretha Franklinがカバーし大ヒットとなった。オーティス・レディングが、すっかりお株を奪われたかたちとなった唄だ*1。
敬意を払って人としてちゃんと扱ってよと男性に向かって歌う Aretha Franklin の "Respect" は、当時のベトナム戦争やブラックパンサー運動、公民権運動を背景にして、女性の自立と尊厳を求める主張となり、女性の権利とフェミニズムを代表する一曲となった。
男性主人に対して、ほんの少しでいいから、わたしのことを大切に思う尊敬の念、尊重する気持ちをもってほしいと歌うアレサ・フランクリンが付け加えた"sock it to me"*2には、女性として扱ってほしいという性的ニュアンスもすこし感じられる。これはもともとスラングで、「力強くやってくれ」「思いっきり見せてくれ」といった意味があり、女性として尊重されたい、自分の欲求や期待に対しても応えてほしい、愛を求める心の叫びになっている。また「R-E-S-P-E-C-T」のスペルアウトも、力強い自己主張となっている。こうして、レディングの "RESPECT" を自分の視点から歌い直すことで、アレサ・フランクリンは、当時の女性たちが抱えるジレンマを表現し、女性にも同等の敬意を払えというフェミニズム的メッセージを込めた。「見えない存在」(invisible)としての黒人的存在、さらに女性という存在という点で考えるならば、二重にも三重にも人として無視されていた黒人女性たちを代弁し、彼女たちの溜飲を下げさせてくれた唄といえる。
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以下、アレサ・フランクリン版の拙訳。
あんたがほしいもの わたしに、あるわよ
あんたに必要なもの わたし、もってる、わかってる
わたしがお願いしてるのは 帰ってからのほんの少しの敬意
(ほんの少しの)ねぇ あんた
(ほんの少しの)帰ってからの
(ほんの少しの)旦那さん
(ほんの少しの)
あんたに悪いことなんかしないわよ あんたがいないからって
浮気なんかしないわよ、したくないから
わたしがお願いしているのは ちょっとした敬意なのよ あんたが家に帰ってからの(ほんの少しの)あなた
(ほんの少しの)帰ってからの
(ほんの少しの)そうなのよ
(ほんの少しの)
あんたに私のお金、全部あげるつもりなのに
かわりにわたしの望みはねぇ、あなた
帰ってきたとき ほめて敬意をあらわしてほしいの
(ほんの ほんの ほんの ほんの)そうなの、あなた
(ほんの ほんの ほんの ほんの)帰ってきたら
(ほんの少しの)そう
(ほんの少しの)ああ あなたのキスはハチミツより甘い
わかるかな わたしのお金もいいものよ
私があんたにしてほしいことは 家に帰ったら おねだりしたいの
(敬…敬…敬)そう、あなた
(敬…敬…敬)すぐにちょうだい
(敬意、ほんの少しの)家に帰ったら、いますぐに
(ほんの少しの)
け・い・い
それが何なのか、考えて
け・い・い
やるべきことをきちんとやってちょうだい
(力強く、思いっきり、力強く、思いっきり)
少しの敬意
(力強く、思いっきり、力強く、思いっきり)
あなた
(ほんの少しの)少しの敬意
(ほんの少しの)うんざりだわ
(ほんの少しの)もうずっとのことだから
(ほんの少しの)もうあんたにだまされるようなおバカさんはいないわよ
(ほんの少しの)わたしもウソなんかつかないから
(ほんの少しの)(敬…敬…敬)家に帰ったらすぐにやってよ
(敬…敬…敬意)ひょっとしたらあんたがやってくるかもね
(ほんの少しの)それでわたしが家を出たってわかるかも
(ほんの少しの)
Aretha Franklinは週刊紙Timeの表紙を飾ったこともある。
アルバムの最後は、サム・クックの"A Change Is Gonna Come"がしめくくる。これも公民権運動を代表する一曲*3。
*1:オーティス・レディングが冗談まじりに「彼女に俺の唄を取られちまった」("She done took my song.")と発言したと伝えられている。