Randy Newman の ”Harps and Angels”(2008)

amamu2018-06-14

2008年のRandy Newmanのアルバム”Harps and Angels”。

 1曲目はアルバムタイトル曲で、Harps and Angels。
 キリスト教徒ではないランディ・ニューマンだが、突然膝ががくがく心臓がばくばく、死にそうになって、天使のハープ(harps and angels)が聞こえてくるという経験を聞かせてくれるお話。
 2曲目の”Losing You”は、大切な人を失ってしまった喪失感を乗り越えられない気持ちを切々と歌う。
 3曲目の”Laugh and Be Happy”は、「笑って幸せになろう」という楽しい調子の唄だが、アメリカンドリームを背景にしているように聞こえる。"Sail Away"後の唄のようにも聞こえる。アメリカ合州国に来た移民に向かって「笑って幸せになろう」と声をかけられている設定で聞くとわかりやすいのかもしれない。
 4曲目の”A Few Words in Defense of Our Country”については、昨日書いた。
 ファッショ的指導者が跋扈する現代にふさわしい名曲。
 5曲目の”A Piece of the Pie”は、アメリカ合州国の暮らし向きを歌った唄。
 世界で一番金持ちといわれる国で、自動車・家などの物質的生活をめざして、身を粉にしてみな働いている。もうちょっと分け前にあずかり、マシな暮らしをしたいという気持ちを歌っている。
 金持ちはどんどん金持ちになるし、俺たちが上昇すれば、誰かが下降する。文句はあるまい。真面目なシンガーソングライターのJackson Browneなら文句を言うかもしれないがと、ジャクソン・ブラウンをいじる。
 U2のヴォーカリストのBonoはアフリカ支援(アフリカを回っているBonoでは、俺たちの助けにならないということだろう)。
これもジョークだろうが、わからないのは、Johnny Cougarの箇所。Johnny Cougarは、General Motorsの宣伝をやったのだろうか。秋までにはトヨタのために歌うだろうと、これもいじりに聞こえるが、よくわからない。
 6曲目の”Easy Street”。On easy streetは、コトバ的にいえば何不自由なく安楽に暮らせるイメージだ。そのまま受け取れるのか、多少の皮肉なのか。Charlie Chaplinの映画”Easy Street”(1917)と関係しているのか。よくわからないが、アメリカ合州国を歌っているのは間違いない。
 ジェフ・チェン*1は、"Easy Street"について、「ジャズエイジの無邪気さを思い起こさせると同時に21世紀の究極の便利経済にどっぷりつかっている感じの夕方の幻想曲」(the evening reverie of "Easy Street," a song that evokes Jazz Age innocence while indulging the luxuries of the 21st-century high-end service-economy)、「ニューマンは禁酒法時代の酒密売店のピアノ演奏者のように歌っている」(Newman sings like a piano player in an exclusive speakeasy)と書いている*2
 7曲目の"Korean Parents"も、合州国の時代状況を材料にしている。
 今のアメリカ合州国は両親の世代が抱えたことのない問題を子どもたちは抱えている。治安は悪いし、公立学校もよくない。一部のユダヤ系の子どもたちや一部の白人の子どもたちは努力しているが、圧倒的な子どもたちは答えを持っていない。
 が、答えはある。それは朝鮮(韓国)の両親を買うことだ。(もちろんこれは冗談なのだが)アメリカ合州国の学校で誰が算数が得意か。クラスで誰が一番成績がよいか。それは韓国人の子どもたちだというステレオタイプを踏まえた唄であることは間違いない。
 NPRのインタビューで、ランディ・ニューマンの実の子どもたちからは、韓国系の友達やその家族に嫌がる人がいるからロサンゼルスではこの曲を演奏しないようにと言われているようだ。
 よくわからない箇所が、“Never forget who sent Fido to the farm”という一行。これは、American Songwriter Magazineで、ランディ・ニューマン自身も次のように言っている。
 "And there are things in there nobody understand-the line “Never forget who sent Fido to the farm” was meant to be about regret. But people took it that I was talking about Koreans eating dogs."
 これからすると、どうやら「後悔」のことを言っているようだが*3、それにしても、何の後悔かわからないから、困る。
 アメリカンドリームを夢見るアメリカ人たちにとって、韓国系の躍進をみていると、不安になるのだろう。アジア系の我慢と忍耐。涙を流さず、後悔せずというのが、学ぶべき教訓かもしれない。
 みなさんの親世代は第二次世界大戦に参加したThe greatest generation*4の世代ではないし、その世代についてはさんざん聞かされて嫌になっているだろうが、立派で美しい世代をつくるのはみなさんだ。韓国系の両親たちとみなさんなのだと歌う、
 8曲目は、”Only a Girl””。
 「なぜ彼女のような美しい人が俺のような年寄りを愛してくれるのか。 多分それはお金のためだろう」(Why would someone beautiful as she love someone old like me Maybe it’s the money)というラインが落ちか。
 9番目は、”Potholes”。Potholesとは、地面などにできる「くぼみ」のことだが、ここでは、記憶の喪失(穴)のことを比喩として言っている。「(過去の思い出の)記憶を忘れてしまう穴」(the potholes down on memory lane)というわけだ。
 ランディ・ニューマンの唄は、別の人格に成りすまして歌う唄が少なくないが、この唄は、少し自伝的に聞こえる。
 唄の内容は、子ども時代にピッチャーをやっていて、普段はストライクを投げられるのだけれど、前日にフットボールかなにかをしていたため、続けて14人の打者を歩かせてしまい、泣いてマウンドを降りて三塁手にボールを渡して野球場を去ったことがあった*5。そのことを父が覚えていて、父親が自分の2番目の奥さんに初めて会わせたとき、自分のいないところで楽しいやりとりになり、この話を父親が妻に聞かせた。なんと次に会ったときも同じ話を父親が妻に聞かせたという笑える話で、記憶の穴にもっと大きくなって忘れてもらいたいと願う唄だ。
 親しき仲にも礼儀あり。人は、忘れること、許すことが大切ですね。
 10番目は、”Feels Like Home”。これは名曲。解説はしない。
 Randy Newmanの"Harps and Angels"は、日本盤は発売されていないようで、輸入盤しかないようだ。Randy Newmanの名盤はぜひ日本盤も発売してもらいたいと願う。

 音楽評論家のRobert Christgauは、"Harps and Angels"にAをつけている。

*1:Jeff Chang。ヒップホップに詳しい。

*2:http://www.slate.com/articles/arts/music_box/2008/09/korean_parents_for_sale.html

*3:https://americansongwriter.com/2008/12/randy-newman-humor-with-character/2/

*4:一時期NBCのNightly Newsの司会をつとめ、彼の書いたThe Greatest Generationの著作から、The Greatest Generationのコトバが広まった。

*5:ユダヤ系のランディのような子どもが子ども時代に野球やアメリカンフットボールに夢中になったのか疑わしいと勝手に思っていたが、これはわたしの浅学と偏見で、"Guilty : 30 Years of Randy Newman"に付いている小冊子には、子ども時代のランディが野球やアメリカンフットボールに勤しむ写真があるし、MLBで活躍したユダヤ系選手も少なくない。