以下のPitchforkのURLで、Randy Newmanの新譜“Dark Matter”に収められている全曲の紹介が、Randy Newman自身へのインタビューで読める。
数日前に"Dark Matter"の曲紹介で悪戦苦闘してアップしたが、これを先に読んでいれば、苦労する必要もなかったわけだ。
作者自身が、全曲について語っているのだから、これはたしかである。
たとえば"On the Beach"に関する疑問も、ランディ・ニューマンの子どもの頃の経験が語られていて、なるほどねと、すんなりと納得することができた。
http://pitchfork.com/features/song-by-song/randy-newman-explains-every-song-on-his-new-album-dark-matter/
このインタビューをもとにして、逐語的な訳ではなく、かいつまんで要約してみた。
インタビューアーの質問・コメントとランディ・ニューマンの語りは、ごちゃまぜにした。
誤読があれば、それは俺の責任であるが、それほど違っていないと思う。そこに、少しだけ別の情報も加えてみたものが、以下になる。
1.”The Great Debate”
人間性と存在について、科学と宗教を競わせるというテーマの8分間のミュージカル。
ランディ・ニューマンは無神論者だが、ゴスペル音楽は好きだというから、debateの勝敗はゴスペルに花をもたせていて宗教寄りだ。Dorothy Love Coates(ゴスペル歌手), The Golden Gate Quartet(ゴスペルグループ)、バッハ、ベートーベン、モーツァルト。ブラームスの名を具体的にあげている。
インタビューで言及しているわけではないが、冗談の「小道具」として、「科学」側の”動員”として、Astroboy(手塚治虫の鉄腕アトム)も登場させている。
歌詞に出て来るThe Six Blind Boysというグループも、YouTubeで初めて知った。
たとえば、以下のURLを参照のこと。
Blind Boys of Alabamaによる "Higher Ground" のカバーが聞ける。
https://www.youtube.com/watch?v=bCfqS7HgAY0
2.”Brothers”
1961年のホワイトハウスでのジョンFケネディと弟Bobbyとの間で交わされるフィクションとしてのやりとり。
キューバ危機の事件を背景にしている。
キューバの歌手セリア・クルス(Celia Cruz)を救出するために、キューバのピッグズ湾侵攻を、JFKが決める。そこが理由かと突っ込めるところが面白い。
3.”Putin”
上半身裸のプーチン。なぜ上半身裸なのか、ランディには気になるところだ。
ランディ・ニューマンは、プーチンはトム・クルーズ*1のようになりたがっている虚栄心があるのではないかと分析している。金持ちであったり、権力をもつだけでは足りないものがあるのだろうと。
プーチンガールズとのかけ合いが面白い。
4.”Lost Without You”
危篤状態の母親のために夫が子どもを実家に集める。そのときの気持ちと情景を歌った唄。
インタビューアーが、デビューアルバムの“Living Without You”の続きのような作品にも聞こえるというと、ランディ・ニューマンは、意識的にそうしたわけではないけれど、類似性があるかもしれないと答えている。
ランディ・ニューマンの父親は医者だったから、父親が兄弟を看取る時に喧嘩になったという。
奥さんを失うとき「喪失」感に襲われるに違いないというのが、ランディ・ニューマンの見方だ。
5.”Sonny Boy”
1948年に殺されたブルーズマンSonny Boy Williamson Iが、別のブルーズマン(Sonny Boy Williamson II)によってSonny Boy Williamson Iのアイデンティティが盗まれるという実話をもとにした唄。オフィシャルビデオがある。
まるで違う唄だけれど、フォーククルセーダースの「帰ってきたヨッパライ」(1967)を思い出した。
ランディ・ニューマンが13歳のとき、ラジオで聞いた”So Sad To Be Lonesome”や”The Goat”のリズム&ブルーズが良かったので、”The Goat”のレコードを探しに行ったら、別のレコードがあって、”Good Morning School Girl”や”Jackson Blues”を聞いてみたら、それらも良かった。こうしてRandy NewmanはSonny Boy Williamson I(ナンバーワン)にたどり着いたわけだが、二番目の奴は、それと同じくらいか、それ以上に良かった。
でも、ランディによれば、名前を盗むなんて不愉快なことだよねと。
ブルーズマンへの賛辞が土台にあることは間違いない。
デルタブルーズからシカゴブルーズ、アフリカ系アメリカ人の移動(the Great Migration)という音楽史も学べる。
6.”It’s Jungle Out There(V2)”
「冗談だが」と断っているが、最後のほうの歌詞で警察の蛮行について歌っている。そもそも歌詞の中で「冗談だが」というような断りを入れることを、ランディ・ニューマンが好きなはずもない。ライブでもその一文は削って歌ってきたという。
ランディは、個人的には、”It’s jungle out there”とは思っていないという。
これは今回のインタビューで言及されているわけではないが、この唄が人気探偵ドラマのモンクに関連していると考える人たちは少なくない*2。以下、参考まで。
https://en.wikipedia.org/wiki/Adrian_Monk
7.”She Chose Me”
この唄は1990年頃に、ミュージカル仕立ての警察ドラマ“Cop Rock”のために書かれたもの。"Cop Rock"の評判は悪かったが、その唄もYouTubeで聞くことができる。
https://www.youtube.com/watch?v=ulg1HiMiuuQ
"She Chose Me"は、エッジがきいてるほうだが、ランディ・ニューマンの作品としては、センチメンタルな曲想の部類になる。センチメンタルな”She Chose Me”や”Feels Like Home”よりも、ランディ・ニューマンとしては、”The World Isn’t Fair”,”Shame”,”Korean Parents”のような唄により興味があるのだろう。"You've Got A Friend In Me"や”Feels Like Home”のほうが、たくさん売れたのだけれど。
8.”On the Beach”
浜辺の永遠の浮浪者ウィリーの話。ランディ・ニューマンの実体験から着想を得た唄。
ランディ・ニューマンが子どもの頃、毎日のようにロサンゼルスの浜辺に行っていた時期が、3・4年あった。ランディは、浜辺遊びはそこで止めたけど、止めない人たちもいる。
浜辺で遊ぶことを止めずに、ずっと浜辺にいた人が一人いたけど、ランディは、50歳になって屋根のない生活ってのはどうもねと言っている。
9.”Wandering Boy”
アルバム最後の曲は、離れ離れになってしまった息子を思い焦がれる父親のバラード。
アメリカの作曲家であるチャールズ・アイヴズ(Charles Ives)の「コンコード」ソナタは、1900年代初頭の”Where Is My Wandering Boy Tonight”という曲をもとにしているとランディ・ニューマンは聞かされ、”Where Is My Wandering Boy Tonight”を弾きがたりで聞かせてもらったら、「コンコード」ソナタよりずっと素晴らしかった。それで、”Where Is My Wandering Boy Tonight”というタイトルをもらって、曲を書いたという。
ランディ・ニューマンは、10歳のときも50歳のときも、近所のLabor Day partyに家族で出かけた。
Labor Day partyでは、当時5歳くらいだった子どもが20歳になって再会することもある。ランディ・ニューマンの実の父親がある11歳の子どもに奴は将来大統領になると言っていたことがあるけれど、実際は、ヘロインで苦しんだり、いろいろなことがあって、大統領になることはなかった。スウェーデンでは、安全・安心の人生がこけることはないけれど、アメリカ合州国では、それはある。
だから、通りで見かけるホームレスの一人がもし自分の息子だったらと想像して、ランディはこの曲を書いた。
書いているとき息苦しくなって大変だったけれど。