新年度予算が成立した。安倍晋三首相政権運営にとって、次の焦点は消費増税を予定通り10月に行うかどうか。夏の参院選に合わせた衆院解散に踏み切るかどうかだ。どちらも判断は難しく、首相自身がジレンマを抱えている。

 今月19日夜、東京都内の日本料理店。首相は消費増税反対論者の藤井聡内閣官房参与と2時間超、食事を共にした。藤井氏は繰り返し持論である増税見送りを進言。首相は最後まで首を縦に振らなかったが、「東京五輪などが終わった後、景気が落ちてくるのは分かっている。だから、何かしなければいけないと思っている」との認識だったという。

 景気の行方は、不透明感を増している。20日に公表した3月の月例経済報告で、政府は景気判断を3年ぶりに引き下げた。「景気は緩やかに回復している」との表現は維持したが、米中貿易摩擦などによる中国向け輸出の低迷や生産減を背景に「このところ輸出や生産の一部に弱さもみられる」との指摘を加えた。

 首相は2014年に消費増税延期を掲げて衆院を解散。さらに参院選を控えた16年6月に「世界経済のリスク」を理由に増税を再延期した。財務省幹部は「景気がこの状態だから気は抜けない。最後まで何があってもおかしくない」と、「3度目」を警戒する。

 しかし、すでに法律で決めた消費増税を先送りすることは、景気後退を認めたことになり、「アベノミクスは失敗」と批判されるのは必至だ。外交や憲法改正で大きな前進が期待できない中、政権の金看板に傷がつくことは、むしろ大きなダメージとなりうる。

 このため首相は、27日の参院予算委員会で、「消費税を引き上げられるような状況を作り出していきたい」と強調した。この日成立した新年度予算には、消費増税対策としてキャッシュレス決済へのポイント還元策やプレミアム商品券の発行などを計上。自動車や住宅の減税とあわせ、平年度ベースで年2兆円の国民負担に対して、2兆3千億円という「大盤振る舞い」の支援策を打ち出した。首相官邸幹部は「全部今からなくすことはできない。増税はもう変えられない」とみる。

 では、増税が規定路線なのに、なおも「先送り論」がくすぶり続けるのはなぜか。首相が増税先送りの信を問うとして、夏の参院選に合わせて衆院を解散するためのカードとして持っておくことで、政権のレームダック化を防ごうとする思惑もありそうだ。

 当初、信を問う内容として取りざたされた北方領土問題をめぐるロシアとの領土交渉は、6月の大筋合意を視野に入れていたが、「もう難しい」(政府関係者)。対北朝鮮では拉致問題の解決も道筋がたたない。増税に否定的な首相周辺は「トランプ米大統領の来日や日ロ交渉で盛り上がらなければ、増税延期もある」と解説する。

 新天皇即位に伴う儀式や2020年の東京オリンピックパラリンピックなど大きなイベントが相次ぐ。しかし、解散の大義を見つけられずに今夏の衆参ダブル選を見送れば、21年9月に迎える首相の自民党総裁としての任期までに解散しやすいタイミングは少ない。結果として追い込まれ解散や政権のレームダック化が進む可能性もある。

 そうしたことを背景に自民党内には衆参ダブル選論は根強く、2月27日に会食した二階俊博幹事長と麻生太郎副総理兼財務相は、その可能性がある認識で一致。二階氏は記者会見などで繰り返す。「我々はいついかなるときでも、常に常在戦場の気持ちで戦っていく。勝利の最大の要因だと思っている」(岡村夏樹、伊藤舞虹)

野党は消費増税で追及の構え

 野党側は後半国会に向けて「消費増税の是非」に狙いを定める。

 立憲民主党辻元清美国会対策委員長は27日の党会合で、「果たして消費税を上げるのかどうか、非常に不透明になってきた。そんな中で消費税を上げることを前提にした予算を審議している」と指摘した。

 野党は国民に不人気の消費増税安倍政権アキレス腱(けん)とみる。

 立憲は「消費不況のいまはあげるべきではない」(枝野幸男代表)、第2党の国民民主党も「軽減税率、ポイント還元は混乱を生じさせ、政策効果もわからない」(玉木雄一郎代表)とそろって反対の立場をとり、政権に揺さぶりをかける。参院選での争点化を狙い、国会で追及する考えだ。

 加えて、野党が政権批判の呼び水となるとみるのは自民党内で浮上した安倍首相の党総裁4選論。

 自民党の二階幹事長らが党則を変えて総裁任期を延長する考えを示唆したが、世論の支持は広がっていない。

 3月の朝日新聞世論調査でも首相の総裁4選への任期延長について「反対」が56%を占め、「賛成」は27%にとどまった。長期政権への「飽き」を野党に取り込むことを狙う。

 野党側の課題は夏の参院選に向けた選挙区調整だ。立憲など野党6党派は全国32ある1人区で候補者の一本化作業を進めており、5月中の完了をめざす。ただ、改選2以上の複数区では立憲が「独自候補の擁立」方針を貫き、国民との間で調整する見通しはない。野党間で候補が乱立すれば共倒れの可能性もある。

 さらには取りざたされる衆参同日選が影を落とす。衆院選が加われば、立憲と国民の選挙区調整は一層難しくなるためだ。

 26日には立憲の枝野代表が記者会見で「(次期衆院選で)政党の責任として独自候補を擁立する」と発言。国民など旧民進党出身者が立候補予定の選挙区にも立憲候補を立てる考えを示したもので、国民からは「一本化に逆行する発言で、反発が強まるだろう」(ベテラン議員)と不満が出ている。(中崎太郎)