「(ラグビーW杯2019 楕円とわたし)指揮者・佐渡裕さん 3拍子の「ハカ」、自由の表れ」

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以下、朝日新聞デジタル版(2019年9月30日16時30分)から。

 3年前に亡くなった(元日本代表の)平尾誠二さんとは神戸のバーでよく会っていました。言葉のセンスが抜群で、男として憧れる人でした。

 僕はラグビー経験はほぼないけれど、同じ京都出身で色々な話をしました。盛り上がったのはニュージーランド(NZ)代表が踊る「ハカ」の話題でした。

 ハカは実は3拍子なんです。日本人は団結して何かをする時、2拍子の音楽を使う。軍艦マーチがいい例です。足並みをそろえて一方向に進む、いわば「抑圧された統一」。3拍子は違う。ワルツです。くるくる回る、優雅なイメージ。

 ハカを踊る彼らは一見威圧的だけど、3拍子で刻むリズムは「これから自由に動き回るぞ」「この場を楽しむんだ」という個々の意欲の表れと受け止められます。平尾さんは「その話はおもろいなあ」とすごくうれしそうだった。

 ハカはNZの先住民族マオリの伝統の踊りで、生や死を表現しているそうですね。いわば、生への賛歌です。僕はそこに、音楽やスポーツの本質があるような気がしてなりません。

 2002年から兵庫県立芸術文化センターの芸術監督を務めています。阪神大震災からの心の復興をめざし、地元の小学校で音楽の授業などをしています。東日本大震災で被災した岩手県釜石市でも毎年演奏していて、今夏は12の東北の被災地を回りました。

 被災地では音楽家としての無力さを痛感しました。でもね、音楽には自分を表現できる自由な世界が広がっている。演奏を聴いて「生きる喜びを感じた」と言ってもらったこともありました。

 ラグビーも同じです。大きな選手たちがものすごい速さで動き回る姿を見たら、何かが開放されると思います。グラウンドに広がる自由な世界を、皆さんに感じてほしいなあ。(聞き手・野村周平

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 さど・ゆたか 1961年生まれ。小澤征爾レナード・バーンスタインに師事し、指揮者として国内外で活躍している。