「デモを変え、社会を変える」

amamu2015-12-20

 以下、朝日新聞デジタル版(2015年12月19日03時30分)から。

(フロントランナー)SEALDsメンバー・明治学院大学4年、奥田愛基さん デモを変え、社会を変える

 取材当日の11月、日曜日。待ち合わせ時刻を40分以上過ぎて、東京・代々木上原駅前に現れた。パーカーのポケットに両手を突っ込み、背中を丸めて走ってくると、小声で「すみません……」。低血圧で早起きは大の苦手なのだ。

(フロントランナー)奥田愛基さん 「絶望を抱えながらも、希望を語る」
 この青年こそ、今年、おそらく最も世間の注目を集めた大学生。安保法制に抗議し、国会正門前などで大規模デモを率いた学生団体「SEALDs(シールズ)」の中心メンバーだ。

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 6月から、法案成立の9月19日の明け方まで、毎週金曜日の同じ時間、同じ路上で、仲間と声を上げた。激しい雨の中も、うだる暑さでも。若者の輪は回を重ねるごとに膨らんだ。知識人を引き寄せ、高校生が繁華街を練り歩き、地方都市に波及した。「政権へ異を唱えたいと思う人が増えてきた時、彼らが“着火剤”の役目を担った」と作家で明治学院大教授の高橋源一郎さんはいう。

 北九州市生まれ。ホームレスの自立を支える活動で知られる牧師の父と、その人たちを家族のように受け入れる母。幼い頃から、炊き出しの手伝いなどをして育った。だが、地元の中学でいじめに遭って不登校になる。「自分が自分になるとは?」と独り悩んだ。世間の価値観とかけ離れた家庭にも、地元にも居場所がなかった。自分でネットで調べて、沖縄の離島へ転校した。高校は島根の小さな全寮制へ。テレビも携帯もネットも漫画も禁止という3年間が終わる前日、東日本大震災が起きた。

 被災地支援を始めた父のつてで現地に入り、大学入学後もボランティアに通った。だが当事者ではない自分の立ち位置に悩み、2年の秋、休学。カナダやアイルランドなどをバックパッカーのように旅した。同世代と酒を飲みながら政治や平和を語り、若者が大学の学費値上げや都市開発に反対するデモを目の当たりにした。

 そして帰国。2013年12月、特定秘密保護法に反対する学生有志の会「SASPL(サスプル)」を約10人で結成。これが後にSEALDsとなる。

 ヒップホップ音楽が流れる車の荷台に立ち、ラップ調に韻を踏むコールや、スマートフォンの画面を読み上げながらの演説など、従来にないスタイリッシュなデモを作り上げ、動画を交えてSNSで拡散、共感を広めた。保守の若手評論家古谷経衡(つねひら)さん(33)は「良く言えば、特別な才能の持ち主。悪く言えば、幼少から自由と民主主義に触れて育った“変人”」とみる。

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 法案成立目前の9月15日、参院特別委員会の中央公聴会。公述人席の一番端に、金髪を黒く染め直し、借り物のスーツを着て座った。「寝ている人がたくさんおられるが、よろしければ話を聞いていただきたい」。約15分間に及ぶ演説の冒頭、そう釘を刺すと、何人かの政治家たちは苦笑いして姿勢を正した。「何もない、誰も知らないところから、ひとりで考え、やってきた。だからあなたたちも個人として決断を」と思いをぶつけた。覚悟の上で動く一人ひとりの個人が、社会を変えると信じている。

 (文・高橋美佐子 写真・関田航)

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 おくだあき(23歳)