映画「インビクタス」を観た

Invictus

 スポーツは、ナショナリズムを妙に刺激するからいけない。今回の冬季オリンピックだって、国家の威信をかけてとなると、私の場合、真面目に国家の威信を信じるほど単純でもないから、どうなんだろうかと考えてしまう。
 しかし、映画「インビクタス」を見た限り、ネルソン・マンデラの政治判断には、政治利用であるにもかかわらず、そうした印象は受けなかった。
 これはやはり、27年もの長きにわたって牢獄につながれていた人間が、旧勢力の支配者たちを赦し、新しい統合国家をつくろうという寛容の精神に心を打たれるからに違いない。
 私自身、2004年にアオテアロアニュージーランドに滞在しているとき、ラグビーに全く関心のなかった私が、オールブラックスラグビーをみて、その技術が高いせいもあって極めてゲームがわかりやすく、美しいとさえ思い、オールブラックスのハカを観て感動もするようになった体験がある。
 アオテアロアニュージーランドのキーウィからすると、「南アフリカと私たちとは歴史的にいろいろあってね」と言われることがあったが、イングランドニュージーランド、オーストラリア、南アフリカの大英連邦を中心とする英語圏のネットワークを、日本人が意識することは少ない。また、メディアにしても、いつかこのブログでも書いたように、ネルソン・マンデラの報道も日本ではほとんどない。英語教科書でも、マーチン・ルーサー・キングジュニアを扱うことはあっても、ネルソン・マンデラを扱うことの方が少ないのではないか。映画「インビクタス」で紹介しているネルソン・マンデラは極めて柔和な人格として描かれ、モーガン・フリーマンが好演している。モーガン・フリーマン演じるネルソン・マンデラは秀逸だ。モーガン・フリーマンという感じがまるでしない。
 マット・デイモン(Matt Damon)演じる南アのラグビーチーム・スプリングボクスのキャプテン・ピナールもいい。とくにネルソン・マンデラの独房の場面は、ラグビーチームのキャプテンにネルソン・マンデラの生き方を刻みつけたろう。
 映画「インビクタス」で、後半30分くらいはあるのだろうか、開会式からオールブラックスとの試合は、激突というにふさわしい。
 エンドロールの前あたりで、ワールドカップを戦った実際の南アのスプリングボクスアオテアロアニュージーランドオールブラックスの各選手のゲーム中の写真が登場する。
 クリント・イーストウッド(Clint Eastwood)監督の実にいい映画だ。
 日本公開は、2010年2月。