ジュピターの個人話を聞く

 ジュピターには、5人の兄弟と、3人の姉妹がいるという。
 うち二人は、コハンガ・レオの教師だそうだ。いわば言語に関する自覚的マオリであろう。
 ただ、兄弟・姉妹がみな言語に関して自覚的マオリかというと、マオリ語は別にいりません、英語だけでいいという兄弟・姉妹も少なくないという。
 自覚的マオリか否かという点では、私の経験でも、オークランド空港で、マオリの女性からTシャツをたくさん買ったことがあったのだが、その際に、私が身につけていたポウナムのヘイティキを見つけて、「あら、まぁ(Yuck!)」と言われたことがあるから、マオリの中にも、誇りを持っている者と、劣等意識を持っている者とが混在しているように思う。
 これはわれわれ日本人の日本語に対する感じ方でも同様のことがいえる。自覚的日本人か、そうでないのかということである。
 ジュピターが生まれ育ったのは、マタマタ(Matamata)で、彼は長男だから、いろいろな判断をせまられる際には、長男として重要な役割を果さなければならないと言った。
 ところで、驚いたことに、ジュピターは、これまでに、6回ほど監獄に入ったことがあるという。
 「ええ、なんで」と私が聞くと、喧嘩や、法令を聞かず無視したことや、さまざまな理由があるらしいが、若気の至りからのことで、今はもう監獄なんかには戻りたくないと、深く反省しているという。
 彼の話では、なにせ監獄は夏は暑いし、狭いし、監獄では、働いたにしても、週給たったの2.65ドルだという。
 ジュディがよく言っているのだが、マオリは監獄に入っているのはマオリが多いというけど、本当なのかと聞くと、監獄にいる90%がマオリだとジュピターは笑って言った。だから、それはけっして偏見に満ちた大袈裟で嘘の話ではないと。
 ジュピターは、私と同じ時期の昨年の7月に大学生になったらしいけれど、「それじゃ、監獄から大学にってところで、まるで映画のような話だね」と私が言うと、親戚や友人にも、そう言われたといって笑った。ただ、監獄から一挙に大学というのは、めずらしいかもしれないが、自分が監獄に入っていたことに関しては、マオリの友人たちや講師たちは、別に驚かないのではないかという。
 年間に彼が支払っている学費は、5000ドルほどだという。大体35万円以上だ。お金はどうしたのと聞くと、学生ローンで払ったという。
 彼の大学生活はあと3年ある。
 将来の夢を尋ねると、将来は、カウンセラーか教師になって、若い人達の役に立ちたいという。自分の経験が青年を導くのに役に立つのではないかというのだ。
 私は真面目にジュピターに言ったのだが、奴は人生の両面を見てきたから、きっといいカウンセラーか教師になれると思うよと太鼓判を押した。
 ワイカト大学(The University of Waikato)には、カパ・ハカ(Kapa Haka)というマオリの文化団体があって、自分も参加しようと思っているんだとジュピターは言った。おそらく、カパ・ハカ(Kapa Haka)は、「ハカのチーム」というような意味だろうと思われるが、3月には、新入生に対してハカ*1のパフォーマンスを披露するという。
 今はメンバーじゃないけれど、自分も所属して、ハカを踊るのだという。
 2月27日には、パルマーストンノース(Palmerston North)で、カパ・ハカ(Kapa Haka)の大きな集まりがあるという*2。是非見に行くといいと私にも薦めてくれた。それでは、これは是非見にいくことにしよう。
 こうして、ジュピターと、戸外のテーブルで、日がとっぷりと暮れるまで大いに語り合い、二人でなんとウォッカを1本空けてしまった。
 ジュピターは、なかなか面白い奴だ。

*1:ハカは、相手を威嚇するためのリズミカルなダンス。今日では、オールブラックスラグビー試合前のハカなどが有名。

*2:Te Matatiniのこと。National Festival / Celebration of Maori Performing Arts。2005年はPalmerston Northで開催される予定。 Te Matatini: Home