以下、朝日新聞デジタル版(2019/12/16 5:00)から。
2020年度から始まる大学入学共通テストで、急きょ活用が見送られた英語民間試験。導入が決まった経緯をさかのぼると、6年以上前に首相官邸で開かれた会議にたどりつく。
始まりは、下村博文・文部科学相(当時)の発言だった。13年3月、官邸で開かれた産業競争力会議。議事録によると、司会役の甘利明・経済再生担当相(同)から指名された下村氏は「産業界・教育界が一丸となることが重要」とした上で、民間試験の活用を力説した。政府の成長戦略をまとめるための同会議は経済界出身のメンバーが多く、楽天会長の三木谷浩史氏も別の回に「日本の英語レベルは低すぎる」と発言。ほかの出席者も「日本人の英語力はアジアの中で見ても残念ながら最低水準」などと述べた。
人口減少が進むなか、世界で活躍する「グローバル人材」を育てて競争力を上げねばならない――。この危機感は民主党政権時も強かったが、「民間活用」で次世代の英語力を養うとの考えが、安倍政権で具体化した。
下村氏の発言と歩調を合わせるように、自民党教育再生実行本部も13年4月、TOEFLなどを大学入試にさらに活用することを提言。安倍晋三首相が設けた教育再生実行会議も13年10月、センター試験に代わる新テスト導入と「外部検定試験の活用検討」を政府に求めた。ここでセンター試験の後継テストと民間試験活用はセットになる。
「読む・聞く」の2技能しか測れないセンター試験の英語を変えることで、「話す・書く」を含めた4技能を高める。即戦力を求める産業界の要請に政治が応える形で、民間試験の活用は大学入試改革の目玉の一つに位置づけられた。
その後、文科省の有識者会議の議論を経て、20年度から始まる共通テストで民間試験を使う方針が17年7月に公表された。
「民間活用、4技能という圧力強かった」
導入の経緯を知る元文科省幹部は、下村氏が自民党の部会などで、「これからの日本のことを考えると、今回は英語4技能を断固やらなければいけない」といった趣旨の主張をしていたことを覚えている。「民間を活用しろ、断固4技能にするんだ、という圧力は非常に強かった。日本は危機にあるから時間をかけている場合ではないという強迫観念があった」と振り返る。一方、下村氏は先月末、民間試験の活用見送りを受けて日本記者クラブで記者会見に応じた。政治主導による「民間活用」との指摘に対し、「強権的な政治家が『決めたからもう一切変えるな』みたいなレベルの話ではない」と否定。地理的・経済的格差などの課題を解決できなかった「現場のやり方の問題」と主張した。
約50万人がいっせいに受ける共通テストでの民間試験の活用には、さまざまな問題点が指摘されてきた。どのように導入が決まり、なぜ課題を解決できずに見送りになったのか。政府関係者への取材や朝日新聞が入手した非公開の有識者会議の議事概要などから検証する。(根岸拓朗、増谷文生、編集委員・氏岡真弓)