「さよならテレビ 社内は抵抗、でも撮った報道の「恥部」」

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以下、朝日新聞デジタル版(2019/12/23 17:00)から。

 「さよならテレビ」――。そんな挑発的なタイトルのドキュメンタリー映画が公開される。テレビ局内にカメラを向けたのは、現役の局員だ。視聴率至上主義がニュース番組にも持ち込まれ、広告を出すスポンサーなどの要望に応える「是非ネタ」のニュースをつくっている赤裸々な姿。正社員の労働時間を削減するため、非正規社員が報道の現場に増えていることも映し出される。これまでにも名作を生み出してきた名古屋市東海テレビが誇るドキュメンタリー集団が、視聴者離れが進んでいるとされるテレビの「自画像」を描き出した。

カメラを回すのやめろ!
 2016年秋、局の報道フロア。土方宏史監督(43)が自社にカメラとマイクを入れ、取材することを報道デスクやスタッフらに突如として告げる。彼らは「何が撮りたいのか」と困惑し、取材クルーに意図をただす。カメラがすでに回っていることにいらだった幹部が声を荒らげる。「カメラを回すのをやめろ! やめろって言っているんだ」「ふわっとした理由で始めるのが腹立たしい。勝手に取材対象にされるんだから」――。

 今作はこんな場面から始まる。次第に、手堅いコメントしかできないことを悩む男性キャスターや、ジャーナリズムを旗印にしつつも会社に振られるネタばかりをニュースにする契約社員のベテラン記者、そして報道現場の「働き方改革」のために補充されたが取材もおぼつかない派遣社員の若手記者の三者に焦点を絞っていく。

 土方監督は、「ホームレス理事長 退学球児再生計画」(13年)でドキュメンタリー映画を初監督し、指定暴力団に密着した「ヤクザと憲法」(15年)で話題となった同局のディレクターだ。自身が所属するテレビ局を題材にした狙いについて、「テレビを含むメディアは『マスゴミ』と揶揄(やゆ)され、たたかれている。そんな存在を取材したり作品にしたりしないのは変だな、と。違う業界なら喜び勇んでいくだろうに、自分たちのことだからやらないというのが気持ち悪かった」と言う。

 しかし、普段はカメラを向ける側のはずのテレビ局員の抵抗感は想像以上に大きかった。報道フロアで日々のニュースを発信するデスクらから「取材拒否」に遭い、撮影中断を余儀なくされた。打ち合わせなどの撮影には許可を取ること、事前に試写をすることなどの条件を飲み、ようやく2カ月後に再開できたという。

(後略)

(小峰健二)