「セクハラ否認、怒り噴出 官僚の認識、がくぜん/感覚、数十年前のもの 財務省なお認定避ける」

amamu2018-04-20


 以下、朝日新聞デジタル版(2018年4月20日05時00分)から。

 女性に対して性的な発言を繰り返しても、「セクハラではない」――。財務省福田淳一事務次官は、辞任を表明し、被害者が勤めるテレビ局が被害があったと発表してもなお、セクハラを否定し続けた。セクハラに対する世間との認識のずれに、驚きの声が広がっている。▼1面参照

 「字面を事実であるという前提にすれば、これはセクハラ。でも、本人は前段も状況も違うといっているので、ハラスメントの実態があったかどうかをまず究明する必要がある」

 19日午後、参院経済産業委員会。福田氏の行為をセクハラとして認定すべきではないかと問われた財務省の矢野康治官房長はこう答え、セクハラと認定することを避けた。

 12日発売の週刊新潮で、女性記者らに対して「胸触っていい?」「手しばっていい?」などと発言したと報じられて以来、福田氏はセクハラを一貫して否定。辞任を表明した18日の会見でも認めなかった。19日未明、テレビ朝日が会見で同社の女性社員が被害にあっていたと公表したが、「全体を申し上げれば、そういうものに該当しない」と改めて否定した。

 なおもセクハラを認めようとしない姿勢に、抗議の声が広がる。財務省の調査手法を問題視するネット署名には2日余りで約3万5千の賛同が集まり、呼びかけ人の弁護士らが19日午後、同省に提出して会見。1989年、日本で初めてのセクハラ裁判に関わった角田由紀子弁護士は「大学や企業などでは、(セクハラ防止の)研修などを一生懸命やっている。財務省の官僚があの程度の認識しかなくて、この国を動かしてきたのか。社会の変化は彼らのところに届かなかったのか、とがくぜんとした」と語った。

 世間と乖離(かいり)した財務省の感覚。女性の問題に詳しいジャーナリストの治部れんげさんは、「これくらい言って平気だろう、という感覚は数十年前のもの」と言う。「企業であれば、市場のチェックにさらされる形で改革が進むが、官僚や政治家は女性の割合も少なく、『これは許されない』という世間の目が届いていないのでは」

 東京都の職員として長く労働相談に関わった経験のある職場のハラスメント研究所の金子雅臣所長(74)は、「男性中心の社会のいびつな感覚が今回の問題を生んだ」とみる。「これまで女性が被害を訴えても、『ヒステリックに言っているだけ』『酒のせい』などと逃げることが許されてきた」と指摘。特に役所という組織では、上司に気に入られるかどうかが評価軸になるため内向きになりがちで、セクハラを訴えにくい傾向が強いのでは、と言う。「今回のことは、日本社会を変える転機になるのでは。問われているのは男性の側です」(仲村和代、三島あずさ)

 ■相次ぐ不祥事、省内から不満

 不祥事が続く財務省への批判が19日も相次いだ。省内からも後手に回る対応に疑問の声が上がっている。19日に開かれた野党合同ヒアリングでは、独立した第三者による徹底調査を求める声が相次いだ。

 財務省の担当者は、テレ朝の発表について「重く受け止める」としながらも、批判が集中している財務省の顧問弁護士による調査を続ける考えを繰り返した。

 野党からの辞任要求が高まるなか、麻生太郎財務相は同日、国会の承認を得られないまま、主要20カ国・地域(G20)財務相中央銀行総裁会議が開かれる米ワシントンに向けて出発。空港に詰めかけた報道陣からはテレ朝の発表を受けた対応を問われたが、何も答えないまま渡米した。

 省内の不満も収まらない。「初動がよくなかった。次官にはきちんと会見を開き、謝ってほしかった」「危機管理能力のなさが露呈した」。対応の遅れが財務省への批判に拍車をかけている現状にいらだちが募る。

 ■「優越的立場乗じた行為、看過できぬ」 テレ朝抗議

 「優越的な立場に乗じて行ったセクハラ行為は、当社として到底看過できません」

 「正常な取材活動による国民への情報提供を目的とする報道機関全体にとっても由々しきこと」

 19日未明の記者会見で、女性社員が取材の過程で福田氏から度重なるセクハラ被害を受けていたと公表したテレビ朝日は同日夜、財務省に抗議文を出した。

 テレ朝によると、女性は1年半ほど前から、取材目的で福田氏と2人で複数回会食。そのたびにセクハラ発言があったことから、「身を守るため」に会話の録音を始めたという。今月4日も福田氏と取材のため会食。そこでもセクハラ発言があり、途中からやりとりを録音した。後日、その事実を報じるよう上司に掛け合ったが、二次被害の恐れを理由に報道は難しいと告げられたという。

 女性は「社会的責任の重い立場にある人の不適切行為が表に出ないと、セクハラ被害が黙認され続ける」と感じ、週刊新潮に連絡。取材を受けた上で、後日、今月4日の分を含む複数の録音データを提供した。

 女性は精神的に大きなショックを受けているといい、「(福田氏が)ハラスメントの事実を認めないまま辞意を表明したことをとても残念に思う」と話しているという。

 今回無断で録音したデータが第三者週刊新潮に渡ったことについて、取材源の秘匿など報道倫理上の問題を指摘する声もある。記者会見で篠塚浩取締役報道局長も「取材活動で得た情報を第三者に渡したことは報道機関として不適切な行為」と述べた。女性は第三者への提供については反省しながらも、録音については「(セクハラ被害を)上司に説明するために必要だった」と説明したという。

 専修大学山田健太教授(言論法)は、今回の女性の行動について「人権侵害を防ぐための公益通報のようなもので問題ない」と指摘。取材内容を第三者に渡してはならないという原則は「取材先との信頼関係を保つための記者倫理であり、加害被害の構図といえる今回の関係においては当てはまらない」と話す。

 一方で今回、上司への相談直後に抗議などが出来なかったテレ朝については「社会に根強く残るセクハラを許容する風潮を変える機会を逸し、残念だ。これは報道機関に共通する課題。これを機に各社とも、社内体制と報道姿勢自体を見直すことを願う」と話した。(湊彬子、河村能宏)

 ■福田次官から女性記者らへの発言として週刊新潮が報じた主な内容

<4月12日発売号>

・「浮気しようね」

・「胸触っていい?」

・「手しばっていい?」「手しばられていい?」

・「エロくないね、洋服」

<4月19日発売号>

・「好きだからキスしたい。好きだから情報を……」