以下、東京新聞web(2020年06月14日 08時15分)から。
新型コロナウイルスが流行し始めてから半年。多くのデータが集まり、毎日のように研究成果が発表されています。けれども、不思議なこと、わからないことがたくさんあります。
一番の疑問は、欧米とアジアの差でしょう。世界で四十二万人が死亡したうち、三十八万人は欧米諸国です。医療水準が高く、感染症対策も進んでいるはずの国で、人口比の死者数が多いのです。
具体的には、主要国のうち人口十万人あたりの死者が最も多いのはベルギーで八十四人。英国、スペインと続き、米国は三十四人。一方、中国は〇・三人、インド〇・六人、日本〇・七人で、いずれも一人に満たない状況です。値が百倍も違います。
◆雲南のコウモリから?
とくに中国は、感染の発端となった湖北省以外では死者がごく少ない。各省とも累計で数人から二十人程度にとどまります。ベトナムなどインドシナ三国は死者ゼロを続けています。
それはなぜか。
山中伸弥京都大教授は「ファクターXが存在する」と言います。ファクターXとは未知の要因のことで、山中氏は、対策の効果や、文化の違い、衛生意識、遺伝的要因、過去の感染などを候補に挙げています。
政府の専門家会議は、日本の医療機関の充実と公衆衛生水準の高さ、それに「クラスター対策が効果的だった」としています。
そんな中、免疫に注目する人が増えています。児玉龍彦東京大名誉教授は、仮説として「軽くて済んでいるという人は、すでにさまざまなコロナウイルスの亜型にかかっている。そういう人が東アジアに多いのでは」と話します。
新型コロナウイルスの起源は、雲南省など中国南西部の洞窟にすむコウモリという説が有力です。
◆見当がつかない第2波
コウモリは「病原体の貯水池」といわれるほど、さまざまなウイルスをもっており、二〇〇三年のSARSをはじめ、コロナウイルスの仲間を繰り返し人間に感染させてきました。周囲の諸国にもそうしたウイルスがやってきて、その時の感染で抵抗力を得た可能性があります。
歴史を振り返ると、十六世紀の南米・インカ帝国の滅亡は、征服者が持ち込んだ天然痘が主因でした。千六百万人だった帝国の人口は十分の一に激減し、百数十人のスペイン部隊に滅ぼされてしまいました。免疫を持つ、持たないで劇的な差が生じたのです。
アジアで死亡者が少なかったのは、対策の成果か、体質のおかげなのか調べ、独自の取り組みを考える必要もあるでしょう。
もう一つの疑問は、本格的な第二波についてです。どこからどんな形で現れるのか、見当がつきません。
ウイルスは消えたと思ったところで突然出現します。韓国では、文在寅(ムンジェイン)大統領が「防疫において世界をリードする国になった」と演説しているかたわら、ソウルのナイトクラブで大量の感染者が出て、対策に大わらわとなりました。日本でも北九州市で、ルート不明の再発がありました。
集団感染は、クルーズ船、ライブハウス、接待を伴う飲食店、カラオケ店で多く発生し、「三密」という言葉が流行語になりました。しかしそれだけではないかもしれません。トイレでうつる、という考え方をする医師もいます。集団感染では、男性のみ、女性のみの感染が目立つケースがあります。排せつ物から感染する可能性もあるのです。
また三密ならどこでも感染が広がるかというと、そうでもなく、発生したのは一部です。パチンコ店やゲームセンターからクラスターが発生したという報告はありません。
そもそも発端の武漢で、なぜあんなにも多くの人が発症し、突出した数の死者が出たのか、明確にはわかりません。医療崩壊が主因なのか、初期のウイルスは特に強毒だったのか、謎のままです。
詳しい「発生条件」がわかれば、次の波が来たとき、しなくてもいい自粛を避けることもできるでしょう。
◆情報公開は各国の責務
新型コロナウイルスの感染拡大には、多くの要因が複合していて、真相をわかりにくくしていると思われます。
先入観にとらわれることなく、新しい知見に対応し、幅広い視野をもたなくてはなりません。
科学の分野では、コロナウイルスに関する論文はすべて無料公開され、データも共有する合意ができています。
政策に関しても、どんな対策が効果があったのかなかったのか、都合の悪いことも含めて、各国が情報を公開し、効果的な手法を編みだしていくことが、これからの責務となるでしょう。