「「何千もの死、避けられたはず」 英政権と科学者に批判」

f:id:amamu:20051228113059j:plain

以下、朝日新聞デジタル版(2020/4/28 18:00)から。

 新型コロナウイルスの拡大で英国は14万人を超える感染者を出した。ハンコック保健相は「感染拡大はピークに達した」としているが、政権の危機意識の薄さと科学者の「ためらい」が重なり、対応が遅れた。「避けられたはずの何千もの死を招いた」(英紙サンデー・タイムズ)と批判が出ている。

 「英国はしっかり準備できている」

 3月3日、記者会見で新型コロナウイルスへの対策を問われたジョンソン首相は余裕を見せた。

 ジョンソン氏は、イタリアでも感染が広がり始めていた2月、婚約者と2週間近い休暇を過ごし、感染対策を話し合う英政府の緊急会議も約5週間、欠席した。3月12日、欧州各国が幅広い行動制限に乗り出しても、集会の中止などには踏み切らず、学校の一斉休校は「利益より実害の方が多い」と言い切った。

 それから1カ月余り。英国で感染者は14万人を超え、死者も25日夕(日本時間同日深夜)の政府発表で2万人を超えた。介護施設や自宅での死亡をあわせるとさらに2割は多いとみられている。

 対応の遅れは、ドイツとの比較でも明らかだ。

 ドイツは人口が英国の約1・2倍なのに死者は英国の3割程度。ウイルス検査の件数も累計170万件を超えるドイツに対し、英国は約60万件にとどまる。

 英政府は検査を1日10万件実施するとの目標を立てたが、今月24日でも3万件にも届いていないのが実情だ。

 背景には、政府による国内検査機関への協力要請が遅れたことがある。2月から3月にかけ、英政府は欧州連合EU)から人工呼吸器や医療器材の共同調達を誘われながら、EUを離脱したことや連絡ミスを理由に参加しなかったことも明らかになっている。

科学者の判断にも疑問符
 しわ寄せは、対応の最前線にも向かっている。

 「医療従事者を守れ」

 ロンドンの勤務医ミーナル・ビズさん(27)は19日、首相官邸前でプラカードを掲げた。

 ビズさんは妊娠6カ月。3月に救急病棟から感染者の来ない腫瘍(しゅよう)科病棟に移ったが、ここでも入院後に発症する患者が相次ぐ。感染の不安を抱えながら、マスクにエプロンという軽装備で対応するしかない。

 各地の病院で長袖ガウンなど医療用防護具の不足が問題になり、政府は指針を改定しガウンの再利用や袖無しガウンの利用を認めたが、「安全性よりも防護具が手に入るかどうかで指針が変わる。安心して働けない」とビズさんは憤る。

 政府は、新型コロナ対策は科学的知見に基づき決定していると強調してきた。しかし、その科学者たちの判断と対応にも疑問符が付いている。

 ロイター通信によると、3月2日には、人口6600万人の英国で約50万人の死者が出るとの試算が専門家委員会から政府に示された。にもかかわらず、その後の専門家会議は政府に厳しい措置を求めなかった。

 委員の一人、ロンドン大学衛生熱帯医学大学院のジョン・エドマンド教授はロイター通信に、「国を閉鎖することは政治的に受け入れられないだろうと誰もが思っていた」と明かした。

 3月16日、別の大学チームがこのままでは集中治療用の病床の8倍の患者が押し寄せるとの試算を出したことで政府の対応は一変。集会の自粛などを要請した後、1週間で国民に自宅待機を求め、大半の商店を閉じる「ロックダウン」に進んだが、感染の急増は止められなかった。(ロンドン=下司佳代子)