「大坂なおみ、芽生えた発信力 世界のトップアスリートへ成長」

以下、毎日新聞(2021/2/20 19:10(最終更新 2/20 19:20))より。

 テニスの4大大会シングルスで、日本選手初優勝の偉業から約2年半。20日にあった全豪オープン女子シングルス決勝を制し、2年ぶりに頂点に立った大坂なおみ選手(23)=日清食品=は、プレー以外の「発信力」も注目される存在になった。昨年は人種差別撤廃を訴えて大きな反響を呼び、女性のスポーツ支援にも携わった。内面が成熟した裏には、新型コロナウイルスの流行下で過ごした貴重な時間があった。

 全豪オープン開幕直前の今月6日。東京オリンピックパラリンピック組織委員会の会長だった森喜朗氏による女性蔑視発言について、海外メディアから感想を求められた大坂選手は「少し無知な発言だった」と率直に考えを述べた。引責辞任した森氏の後任として橋本聖子氏が新会長に就任した際は、「昔は受け入れられたことでも、若い世代が許容できないことはたくさんある。女性にとってのバリアー(障壁)が破られてきたのはとてもいい」と歓迎。「私たち(女性)はただ、平等になることだけのために多くのことで闘ってきた。いまだにさまざまなことが平等ではない」と女性の思いを代弁した。

 社会問題に関心を持ち、自ら積極的にメッセージを発信するようになったのは昨年のことだ。コロナの影響で3月にツアーが中断し、時間に余裕ができたことで改めて自分と向き合った。「これまでの私はテニスの勝敗で自分の存在価値を測っていた。でも、今はそうは感じない。世界で起きている多くのことを見ることができたから」

 米国で後を絶たない白人による黒人差別の問題に関心を抱き、抗議行動への支持を呼び掛け、デモにも参加した。アスリートが政治に関わることへの批判に反論し、自ら行動を起こして発信することを恐れない。昨年の全米オープンでは決勝までの試合数に合わせ、黒人被害者の名が入ったマスクを7枚用意。入場時などにそのマスクを着用して抗議の意思を示した。差別の問題を多くの人に考えてほしいという使命感が原動力となり、優勝した。

 昨年は姉と共同でデザインしたマスクをオンラインで販売し、コロナの影響を受けている子供を支援する国連児童基金ユニセフ)の活動に利益を全額寄付した。女性のスポーツ参加を促進するためのプログラム「プレー・アカデミー」を設立し、長くスポーツを続けられる環境づくりを支援した。さらに今年1月には「若い女性アスリートに刺激を与える素晴らしい女性たちへの投資」として、米サッカー女子プロリーグ(NWSL)所属チームの共同オーナーにも就任した。

 女子日本代表監督を務める日本テニス協会の土橋登志久・強化本部長(54)は「10代半ばからテニスに懸けてきたが、コロナをきっかけに一度立ち止まることができたのが良かった。選手としての人間的な大きさが自然と出てきた。チャーミングな面もあるけど、それもメッセージとして伝わり、彼女の魅力につながっている」と語る。世界のトップアスリートとしての階段を着実に上っている。【浅妻博之】