「英語道」松本道弘 (1981)を読んだ

 「英語道」松本道弘 (1981) を読んだ。

 松本道弘氏の提唱する「英語道場」の「英語上達十訓」には次のようにある。

一 英語は体で覚えよ

  学校英語から早く卒業しよう

二 丸暗記英語から早く卒業せよ

  ハワーユウ・ファイン・サンキューは外国では役立たない

三 動詞の基本形をマスターせよ

  その第一歩は give と get である

四 英語で考えよ 

  英語で感じることと考えることは違う

五 いつまでも発音にとらわれるな

  ネイティブ英語の虜になるな

六 発想と論理を転換せよ

  単語だけ置きかえても外国人にコミュニケートしない

七 外国人には結論を先に言え

  まず結論。それからBecause で証明せよ

八 英英辞典と英会話しろ

  英会話はひとりでもできる

九 Why-Because に強くなれ

  ホワイとビコーズの間をちぢめること

十 少し無理をしろ

  英語はコツコツやっても上達しない

 

英語道(1981)

 「英語道」の「十訓」ぜんたいとして言えることだが、松本道弘氏は次のように述懐されている。

私は柔道に打込んだ。柔道部では最も小兵であった。その私が、高段者と言われる三段をとるまでの過程は、名伏し難いつらいものであった。その間、何度か手痛い怪我をし、ひどい骨折をしたものである。が、その柔道も、英語の道に比べれば、まだまだのどかなものであったように思う。英語をやりながら負った傷の方が、よほど大きくて深い。(p.3)

 「十訓」の「十 少し無理をしろ 英語はコツコツやっても上達しない」に通じることだが、松本道弘氏は以下のようにいう。

圧倒的に強い相手と闘っていれば、伸びるスピードも格段に早い。そして、少なくともその相手の力程度には伸びていくものなのだ。相手の力程度になれたなら、次はまたその二ランク上を目指せばよい。

 この柔道の方法を、私は英語の道にも活用したのだ。英語はコツコツやっていれば必ずできると言うが、「英語はコツコツやっていては一生できない」---これが私流の発想である。英語道でも、目指す目標は二ランク上ぐらいがちょうどいい。無理をしなければダメだ。無理が無理と感じなくなった時、それを力という。(p.36)

 

 次は、「関学高等部」時代のエピソード。これは「十訓」の「八 英英辞典と英会話しろ 英会話はひとりでもできる」に通じる。

知らない英単語が出てきたりすると、英英辞典を開いては、その単語の意味をたしかめる。納得するまでその意味を追う。まわりくどいやり方だが、このようにして、私は英語の語感というものをみがいていった。いわば、英英辞典を相手に、無言の英会話をしていたわけである。この一人だけの時間を、私はこよなく愛した。(p.38)

 次も「関学高等部」時代のエピソード。これは、「十訓」でいえば、「一 英語は体で覚えよ」に近いか。

 英英辞典の他に、私のもう一つの相棒は、やはりラジオだった。柔道の練習が終り、家に帰って一人になると、英語のポピュラーを聞いたり、自分でも歌ってみたものだ。特にエルビス・プレスリーの歌は、ほとんど自分で歌詞を覚えてしまった。特に気に入ったのが、All shook up という曲だ。その理由は、曲のテンポがおそろしく速く、とても自分の手に負えないと、初めて聞いたときに思い、それが、かえって挑戦的で魅力を感じたからだ。何度、同じ歌ばかり歌ったのか定かではないが、おそらく数百回にはなるのではないだろうか。(p.39)

 松本氏は、大学に入ってからは、著者は日本人向けのラジオ講座を聴くのをやめたという。その理由は、日本人向けにアレンジされた英語と外国人どうしが話している英語との間には、リズム上違いがあり、たとえば、日本人向けのラジオ講座は聞き取れるのに、外国映画の英語となるとなぜ聞き取れないのか、疑問に思ったからだという。シナリオを買って「懐中電灯を持ち映画館へ」通ったというから奇人変人ぶりは恐れ入る。最初は歯が立たなかったが、大学三、四年になると、「気のきいた英語をメモするようになっていった」という。

 大学時代にハワイ人に化けて押し通したというのも奇行(気魂)というほかないが、「第三部 岩井産業」のところで、次のようにあることに深く納得した。

 私がハワイ人に化けても一度も見破られなかったのは、得意のボーカーフェイスと、ネイティブの英語から直接学んだリズム感のおかげだろう。私の技は big words を避け、英語のヤマト言葉(簡単な言いまわしでいて、英語国民にスンナリと入る言葉)をリズミカルに使うことで、”格調”派の意表をつくことだった。

 「恨みを抱く」と言う場合、普通 have a personal grudge against ~と言うが、それより have something personal against ~ またさらに personal をとり have something against ~ としたのである。時には、have it in for ~ というイキな英語を使うこともあった。 She has it in for him. (彼は彼女を恨んでいる)を、「シーヘゼレンフォーリム」とリエゾンをきかせると、受験勉強派はお手上げである。この手を使えば、道場破りはわけかなかった。(p.135)

 なるほど。

 巻末の「付録」である「英語道実力測定表」も役立つ。