車がないけれど、とにかく歩き始めた

 迷いもあったけれど、せっかくここまで来たのである。一番近いベルバードグローブ(Bellbird Grove)のコースをめざして、私は歩き始めることにした。
 ブリズベンは暑い。汗だらだらで、車がたまにものすごいスピードで通る舗装道路を歩く。水の量が足りるのか心配になるほど、汗をかく。これで、そのウォークがしょぼかったら許さないぞという気持ちで歩いたが、かなり歩いて、目的地まであと2キロの標識が見えたときは心底嬉しかった。
 そのウォーキングコースのあるスタート地点に到着してみると、確かにみんな車で来ているようだ。家族連れでたくさん来ているが、ウォーキングを楽しみに来ているという雰囲気が感じられない。ランチピクニック気分で、代々木公園で家族がくつろいでいるというような雰囲気である。
 オージーは、そのウォークとやらをちゃんと歩いているのか。結構みんな体格がよすぎるから、もっと歩いた方がいいんじゃないのという気分で、ウォークを歩き始める。ところが、これが、なんていうことない小道なのである。ターバル巡回路(Turrbal Circuit Trail)といって、1.7キロ、50分のコースを歩いたのだが、ハイライトはアボリジナルの自然環境との交流と、道の途中にある再建された小屋であるというけれど、しかし、この程度なら、もっと手前に歩くためのコースをつくれなかったのかと、小言を言いたくなる。なんとも大味のウォーキングコースだ。今日はこれで切り上げて、さっさと帰ることにしよう。
 市内に戻るバスなのだが、このフォレストパークのインフォメーションセンターの一つ手前の停留所まで来るバスは結構あるのだが、インフォメーションセンターまでやって来るバスは4時2分が最終である。こうなったら意地でもそのバスに間に合わせるぞという決意で帰りの道を歩く。
 こんな暑い舗装道路を歩いている奴はカップルを一組見たけれど、単独ソロで歩いている奴なんて皆無!一人初老のサイクリストを見かけたので、「いいね」というサインを親指を立てると、ちょうどアップヒルで彼もくたびれているところらしく、こちらを見てにっこり笑ってくれた。
 途中、一台の車が私の横を通り過ぎて、前で停車した。普通なら、私が走っていく場面であろうが、私は自分のペースで歩いていた。それでもその車は、私がたどり着くまで待っていてくれている。世の中には親切な人もいるものだ。カップルの女性が「乗りますか」と言ってくれて、これには感動した。けれども、ここまで歩いたのだ。あとは意地でも歩きたいということで、丁寧にお断りした。
 バス停には5分前だがなんとか間に合った。汗だくだくだった。今日のウォークは、私にとっては、ただただ歩くだけの18キロのウォーキングでしかなかった。今日行った場所はブリズベンフォレストパークのほんの一部であろう。車でないから、ほとんど見ていないに等しい。そもそもここは、家族で、車で来る場所なのであろう。友達を誘い合って、家族どうしがたくさん来たら、より楽しくなる場所なのだと思う。一人で気軽に来て、散策を楽しむという場所ではないようだ。こうして、汗だくだくで私はバスに乗り、シティまで戻るときに、途中馬に乗っているオージーを見かけた。私の住んでいる地域には馬に乗って散歩している人がいるが、普通、日本の都会では乗馬による散歩は無理だろう。
 クイーンモールに着いて、すぐ戸外レストランの席に座わって、ビクトリアビター(VB)を1パイント注文する。シーフードのリングイーネ・ぺスカトーレと書いてあったので、これを注文して、チリトマトソースで塩分補給をはかった。
 ということで、ブリズベンの自然は近いことは近かったが、一人で散策を楽しむということで言えば、いまひとつであった。やはり車がないと、ブリズベンの自然は十二分に楽しめないようだ。