昨日大学から帰ったら、庭のポストからこぼれて芝生に落ちていたアマゾンの包みが、雨にすっかり濡れてボロボロになっているのを見つけた。10月6日発送で、ようやく18日に着いたようだ。勝手に置いていっているけど、宅配って、署名が必要じゃなかったのか。
ということで、日本じゃ他に追随を許さないOTの新譜を、早速、居間にある安っぽいCDラジカセで試聴してみた。
1回目聞いて、音楽・歌詞ともに「こりゃ、むずかしい」と思った。
2回目聞いて、これまでのOTの歌詞よりカタカナと英語が多用されている印象があって、「日本語歌詞の路線としては、こりゃ違うんじゃないの」と思った。
3回目聞いて、歌うにはむずかしそうな曲ばかりだけど、「リズムとメロディはかなりいい」と思った。
4回目聞いて、リズムとメロディがいいんだから、「やはり歌詞をもう少し合わせて練って欲しい」と再度思った。
5回目聞いて、「スカイウォーカー」が一番気持ちがあっていいと思った。
6回目聞いて、歌のメロディは結構単調なものが少なくないから、暗いのが悪いということではないけど、アルバム全体の歌う調子は暗いと感じた。*1
けれどリズムや演奏の点ではOTは元気だなと思った。
7回目聞いて、少しずつ気に入ってきた。*2
ということで、むずかしい「LION」の各曲の歌詞の印象をざっと書くけれど、音楽関連の用語の使い方はいい加減です。
- 「ライオンはトラより美しい」
どうしても、このタイトルは、ディズニーや手塚治虫の「ジャングル大帝」を思い出してしまう。
「ライオンはトラより美しい」か。ハミルトン動物園で先日見た危機に瀕しているスマトラの雌のトラはとても美しかったよ。
この唄、ミュージカルにはぴったりだろう。そう、ミュージカルなら、いいかも。「ライオンキング」か。見たことないけど。
たしかにリードギターやベースがライオンらしい。何回か聞くと、多少重みが出てくるね。
- 「何と言う」
「ツアーメン」「みんな元気」などと同じように、ローリングストーンズ路線のタメのドラムスで始まるけど、途中バックビートがかなり軽くなる。ロカビリーや初期R&Rの雰囲気も。すでに古典。
それでいいだろ
言葉なんか
って言っているから、アルバム全体の歌詞内容が今回いまひとつ薄い印象があるのかな。
OTの「LION」に出会って、「何と言う」。「うれしいですと言う」「あたりまえだろ」「ほんとなんだ」。
全体的にストイックな調子ですけど、この曲、好きです。ロカビリーの王者OT。*3
- 「スカイウォーカー」
少しヘビーなフォークロック路線。いいな、この唄。わかりやすいし、カッコいい。大好きです。アルバム中で一番好きかな。
二人で歩いたら
頭はからっぽで
悩みは消えてしまったんだ
大きい空から
雲がむかえに来て
空飛んでる気分だったんだ
雰囲気のいい恋愛映画のテーマ曲か何で使って欲しいな。
ひとつだけ。カタカナ題名は、なんとかした方がいいかも。
「空中散歩」じゃ、ダメ。やっぱ、ダメか。
- 「線路は続かない」
ビートルズ路線。マジカルミステリーツアーか。不思議な唄だけど、ズンズン進んで行く感じがある。列車によるトリップか。
歌詞は極端に短く、「お猿の電車」風な感じも。メロディと全く合いそうにないのに、ゆっくり歌っているおかげで、不思議とぴったり。これ、いいね。あの名曲「いかんともしがたい男」には内容的に負けるけど、音楽的には近いものがある。きわめて良質な音楽。
低い声で歌っているから、旧国鉄や旅行社からは残念ながら旅のテーマ曲として希望されないだろうけどね。「だろ」。「世界の車窓から」でも、ちょいと無理だろう。「だろ」。*4
- 「アーリーサマー」
これは、聞きやすいきれいな曲ですね。アコースティックピアノとヴォーカルから、ドラムスが入り、多重録音になって、ハーモニーがものすごくいい。エレキギターがうなる盛り上げ方も好きです。
サビのところでは、ユニコーンの「甘い乳房」にちょいと似ているところも。
「銀河の夜は」で始まるコーラスにはしびれます。「星がなんでも知っているんなら」という表現も、すでに古典でしょう。
いつも通り、たまに投げやりで終わるOTのエンディング。もうちょっと引きずって、きちんと終わって欲しかったんだけど。
花火だからか。「ぽつりぽつり」と刹那的に考えているだけだからか。
カタカナ題名は、「ありさま」と韻を踏んでいるんだろうけど、ね。
- 「歯」
これは絶対、日本歯科医関連組織から表彰されておかしくない曲。
個人的には、シンバルの連打が好きです。
ただし、後半の
ハニー
君をかんでやる
の繰り返しの箇所は削除ということでお願いしないと、ね。この部分だけ少し猟奇的で、演奏も猟奇的。あの名曲「エレジー」の雰囲気もある。PGにひっかかることは全くないけどね。
音楽的には、アルバム中もっともロックしてる三部作の前奏曲。
- 「サプリメン」
日本語として頑張ってロックしている曲。どんどん歌詞をかぶせていくノリはものすごいパワーだ。OTの面目躍如。「五臓六腑」も入っていて、日本語の歌詞路線としては全く正しい。このリズムで、よくこれだけはっきりと日本語を歌えるもんだと全く感心してしまう。カッコいい。
だけど、これはOTの責任じゃ全くないんだけど、こういうリズムだと、どうしても日本語はノリが悪い。特にカタカナ語は、ノリが悪いと思うのだけれど。
それから個人的には、これだけロックしてるんなら、もうちょっと怒りの歌詞をね、入れてほしいのね。「電話」や「猫」や「おとなりさん」のことだけじゃなくてね。
個人的にはサプリメントとは全く縁がない生活だし。
でもこの「サプリメント」効果による「変化」じゃ、「朝から電話なるし」から「朝から電話してるし」、「ネコエサエサと鳴くし」から「ネコエサもサービスし」、それと「選挙カーはうるさいし」から「選挙カーを運転し」などの「サプリメント」効果は結構笑える。
この日本語の「し」の働きは何というのだろう。考えてみれば、不思議な「し」だ。
フィナーレへと続くバックコーラスもおかしい。
うちの猫もエサエサってうるさいから、「そういうときは飲んで」みるかな。「ネコエサもサービス」するときが俺にもあるし。「寿司」パーティもよく開いているし。
- 「プライマル」
前曲「サプリメン」からのまさに連続攻撃。「ひとかたまりになって、どかーん」。OTはすこぶる元気だ。「始まったらこのまま」。
コンサートじゃ、この曲、ノルでしょうね。観客の動きが見えるようです。
まさにライブコンサート用ですね。ヤイ!
- 「サウンドオブミュージック」
「サプリメン」「プライマル」「サウンドオブミュージック」と三曲続けて、パワー全開。コンサートでもおそらく連続攻撃でしょう。
「サウンド・オブ・ミュージック」は「マシュマロ」路線で、モンキーダンスにぴったりの60年代エレキサウンド。
コトバとしては日本語の「数分の」という響きはとてもいいね。「数分の」がこんなに素敵なコトバだとは知らなかった。「興奮の」と韻を踏むと、ますますいい。
それでも、やはり名曲「マシュマロ」の衝撃が凄すぎたし、「エクスタシー」「サウンドオブミュージック」などカタカナを歌詞に使っている分だけ、ちょっぴり聞き劣りがするのは否めない。
それでも、これだけ、60年代に敬意を払っている曲もないかもね。
- 「フェスティバル」
とても美しいメロディですね。このハーモニーも気持ちいい。三連続攻撃のあとの素晴らしい小休止。
「フェスティバル」とは、ロックフェスティバルのことなのかな。野外ロックフェスのときにやるといい雰囲気になるでしょうね*5。田舎の夜はたしかに「とても暗い」「本当に暗い」。ニュージーランドの夜も暗いよ。
フェスティバルは、「祭り」の意味だから、まさに人間の生活の中心だよね。「フェスティバル」の含意も、「肉を食べ歌を読み」に少し近いものがあるしね。
日本語の歌詞の雰囲気もとてもいいから、個人的には、さらにもっと人の暮らしの方向で歌って欲しかったのだけれどね。
- 「コアラの街」
この「コアラの街」って、どういう意味なのだろうか。
よくわからない。
凝った精緻でむずかしい「LION」の中で一番、音楽的に簡単な曲。OTも全くぶっきらぼうに歌っている。アルバムの中での位置がよくわからない。
乾燥したオーストラリア大陸のコアラが日本にやって来て、観察している歌なのかな。まさかね。
そういえば、一昨日のニュースで、オーストラリアのニューサウスウェールズ州じゃ、ウェットランドが日照りで大乾燥して、渡り鳥や動物に被害が出ていると報道していた。
ニュージーランドじゃ、この冬、大寒波で、クライストチャーチ付近では羊が大量に死んだ。
自然の力を甘くみてはいけません。
木に登って
木に登って
見てるよ
見てるよ
見えるよ
ずっと変化のないメロディーが続くからね、サビの箇所が救いだ。
「ころばぬ先の杖」「犬も棒にあたる」だから、コアラも「木から落ちる」かな。
エレクトーンのようなリードが響く60年代のエレキサウンド。
- 「青春」
フィナーレの「青春」は、いいね。
やってもやってもまだ
まだ足りないのはなぜ
なんだか「フレンチポップス」と、「ひょっこりひょうたん島」の「みんなのうた」路線と、「サザンオールスターズ」をまぜたようなメロディで、気持ちのいい民生節が聞けるから、とても気分がいい。アルバム中一番明るい曲想かな。
やってもやってもまだ
やってもやっても足りない
この気持ちは誰にでもあるでしょう。だから普遍性があるよね。
高畑勲監督の「おもひでぽろぽろ」のようなアニメ映画の主題歌にいいかも。元気がでるしね。
ただ、「アイライキ」(I like it.) 「ユーライキ」(You like it.)は、ね。なるべく、英語はね。
少し軽いけど、ファイアストームを囲みながら、青春歌謡として、肩組み合って歌えば、ね、最高かもね。
アルバム全体として、「歯」や「サプリメン」などにはユーモアを感じるけれど、今回はユーモアが少し足りないかな。いずれも名盤である「GOLDBLEND」や「E」と比べると、アルバムとしてのまとまりが少し足りない気もするし。アルバムの最後の終わり方も結構あっさりだし。
それから、ポップと同時に、例えば「サプリメン」なんかは日本語の歌詞として本当に頑張っていると大いに評価しているのだけれど、こんだけ怒りのメロディとリズムを入れ込むなら、歌詞ももっと怒りの歌詞をね、入れてほしいのね。
俺が唯一、一番、奥田民生に期待し、注文したい点はそこです。