Patrick Humphriesの書いた本によれば、アルバムPaul Simonの最後の曲、Congratulationsは、Little Anthony & the Imperialsの1958年のヒット曲”Tears On My Pillow”から拝借しているという。
このヒット曲の歌詞を調べてみたら、どうやら”Love is not a gadget, love is not a toy”(「愛は遊ぶ機械じゃない、愛はオモチャじゃない」)という歌詞をポールサイモンは拝借したようだ。Congratulationsで歌われている歌詞と正確に比較するならば、”Love is not a toy”だけを拝借したということになるけれど*1。
それで、このポールサイモンの唄だけれど、最初の一行が伴奏なしでいきなり”Congratulations”(「おめでとう」)と褒めて始まっているのに、二行目が”Oh, seems like you’ve done it again”(「またやっちゃったようだね」)で、聞き手に何か変だと気づかせて、Congratulationsが皮肉、もしくは冗談だとすぐにわかる仕掛けになっている。
それで、”And I ain’t had such misery Since I don’t know when”(「こんなみじめさを味わうのは久方ぶり。前に味わったのはいつ頃だったっけ」)と続く。
次の歌詞は以下のとおり。
たくさんの人々が
家から逃げ出していて
さらに多くの人たちが列をなして待っている
法廷でね
法廷で
つまり、この唄のテーマは離婚だ。
そして
Love is not a game
Love is not a toy
Love’s no romance
と畳みかけるように続く。
これは昨日も書いたけど、否定、否定、否定と、否定の三連発。これは英語のリズムなんですね。この三拍子はワルツのリズムのようでもある。
でもLove’s no romance(「愛はロマンスではない」)となれば、それじゃ、愛って何なのという気持ちにもなりませんか。結婚前の若い人たちには禁句の一行かもしれません。
ただ、英語のromanceは「センチメンタルで理想化した愛」であり、このromanceには、「長続きしない一時期の」とか「結婚に至らない」というニュアンスがあるということは知っておいていいことかもしれません。
Love will do you in
And love will wash you out
And needless to say
You won’t stand a chance
このdo someone inは、ちょっとむずかしい。
do someone inで、「殺す」。
だから、Love will do you in は、Love will kill youの心になります。
愛は君を殺してしまうし
愛はきっと君を疲れ切らせてしまう
そして言う必要もないけど
君には絶対チャンスはない
こうして、主人公は叫ぶのだ。
どうしても知りたい
後生だからどうか答えてくれないか
男と女は共に平和に生きられないのか
共に平和に生きられないのか
実際、こう唄に書き、そう歌ったポールサイモン自身が、自分のことを予測したかのように、数年後の1975年に、列に並んでペギーと別れてしまった。
No, I would not give you false hope(「いや、誤った期待を与えるつもりはないんだ」)で始まったアルバムPaul Simonにふさわしい幕切れではないか。
*1:この点では、Love is not a gadget Love is not a toyよりも、Love is not a game Love is not a toyの方が一般的な作詞というべきものでしょう。gadgetは、ハイテク器具のような大人のオモチャを指すときによく使われる語彙。