Paul Simonによる"Paul Simon"(1972)というアルバム

Paul Simon

これはPatrick Humphriesの”Paul Simon still crazy after all these years”に書いてあったことで、先日読んだばかりなのだが、Paul Simonというアルバムのテーマは死から逃れることはできないという運命だ。
 The album’s opening track and first single, ‘Mother and Child Reunion’, was weirdly inspired by a chicken and egg dish Simon had enjoyed in a Chinese restaurant! From such humble gastronomic beginnings he crafted a beautiful and haunting contemplation on the intimations of mortality---some of the lyrics were actually based on a dog of the Simons’ which had recently died. The lyrics deal poignantly with the loss of someone close to you: the finality of death is tempered by the realization that reconciliation lies ‘only a motion away’.(「このアルバムのオープニング曲で最初のシングル、『母と子の絆』は、奇妙なことに、サイモンが好きだった中華料理店のチキンと卵料理に触発されたものだ*1。こうしたさして重要でない美食から始まって、死から逃れられない運命の暗示について、サイモンは頭から離れられない見事な長年の観察を精密に仕上げた。たとえば、歌詞のいくつかは実際に最近死んでしまった犬にもとづいたものだ。歌詞は、身近な人を失うことを悲痛に扱っている。死の究極性は、和解はちょっとしたことに存在しているという悟りによって和らげられるのである」)
 Eric ClaptonのI Shot the Sheriffが収められた461 Ocean Boulevardが1974年。言うまでもなく、reggaeを世界に広めた曲だ。Bob Marley and the WailersのCatch a Fireが1973年。先の本を読んで知ったのだが、「レゲエのリズムを活用したメジャーな白人ロックンロールアーティストの中ではサイモン初めてだったということは知っていていいことだ」(It is worth remembering that Simon was the first major white rock and roll artist to utilize reggae rhythms.)とあった*2
S&G時代の’Why Don’t You Write Me’という唄もレゲエに刺激を受けたリズムだったが、さらにもっと本格的なレゲエを「母と子どもの絆」で使っている。
 この『母と子の絆』の中に、'I know they say let it be  But it just don't work out that way'(「奴らがなるようになるさと言うのはわかっているけど、ただそんな風にはうまくいかない」)という歌詞が出てくるが、これがBeatlesの'Let it be'を踏まえたものなのか、そうでないのか、私にはわからないが、踏まえたものだとした方が面白い*3
 アルバムPaul Simonは、60年代の理想主義や楽観主義を戒め、仮に理想主義を掲げるにせよ、それほど能天気ではいられないと自戒した決意が感じられるのだ。そうした決意が、アルバム冒頭のNo, I would not give you false hopeに込められ、アルバム全体を支配しているように思う。
 アルバムPaul Simonのテーマは確かに暗い。だけれども、そこにポールサイモンの冷徹な観察眼とリアリズム、そしてユーモアが感じられるのだ*4

*1:よくわからないけれど、この中華料理屋の料理名がMother and Child Reunionで鶏と卵を使った料理であるとすれば、これは日本の「親子丼」の発想だ。ただ、それは名前だけの話で、母との子の絆はちょっとしたことにあって、それでちょっとしたことでうまく行く場合もあるし、うまくいかない場合もあるというような刹那やちょっとした運命的な差異がテーマなのだという気がする。

*2:レゲエを下敷きにした曲としては、BeatlesのObladi Obladaが最初だという説もある。

*3:Mother and Child Reunion mourns the death of the '60s with a reggae rhythm section recorded in Kingston, Jamaica.とローリングストーンレコードガイドにあったから、この指摘は的外れではないように思う。

*4:Mother and Child Reunionというタイトルが中華料理名から来ているというだけでおかしいではないか。