私が居候をさせてもらっている家のジェニーの旦那であるトニーはエンジニアだ。
家の地下には、ソーラーヒーターシステムがあって、なんと彼が自作したという。
トニーに言わせると、これが自分のSUV*1ということだ。つまり、SUVが買えるほどの値段でつくったソーラーヒーターシステムだから、いわば自分の道楽ということが言いたいのだろう。
ジェニーの家には、車が三台あるが、その三台目は、トヨタのポンコツのトラックだ。トニーは、泥棒が来ても、この家には何もなさそうだと思わせるおまじないだと、冗談を言っている。
彼らエンジニアがやっている仕事は、一般人には理解できないレベルなのだろう。その中でも、優秀なエンジニアと一般人との間をとりもつ中継ぎのような仕事をしているとトニーは言った。いわばエンジニアの翻訳家か通訳といった仕事だと、私なりに解釈した。
そもそもロサンゼルスは、砂漠のような地帯なのに、気候が温暖なせいで、北へ南へそして東へと発展してきた。
ロサンゼルスの産業は、ハリウッドに代表されるエンターテイメントと、コンピュータに代表されるハイテク産業だ。アメリカンドリームとしては、ガレージから起業したマッキントッシュやヒューレットパッカードが有名である。
さて、そのロサンゼルスで、トニーはサッカーチームのコーチを余暇のボランティアとしてやっている。
彼が書いた父母向けのそのサッカーチームの基本方針を読ませてもらった。
その基本方針を簡単にいえば、子どものチームだから、まずは勉強が大事であるということ。サッカーの技術指導もするし、勝ち負けも大事だが、まずは内容が大事であること。結果はついてくるという考え方だ。とくに大事なのは、チームワークで、汚い言葉を使ってやじったりしたら、二試合出られないという罰則があるという。コーチ陣に支払いがあるわけではないこと、すなわち徹底したボランティアであることも、基本方針に明記されていた。
トニーは、イタリア系アメリカ人で、移民として合州国に来た祖父の時代は貧乏だったという。
トニーは、いつも冗談ばかり言っているが、しっかりした教育方針を彼はもっている。二人の子ども、15歳のジュリアと11歳のケビンには愛情を注いでいることが傍で見ていてもわかる。
教育方針では、なんといっても、子どもと大人は、遊ぶ内容も、時間帯も全く違うという明確な区別が興味深い。
それに、歯を磨きなさいとは毎日必ず言っていること。子どもの話をよく聞き、会話を楽しんでいること。子どもに対するこうした接し方は、余裕がないとできない。彼らは遅くても、5時半から6時には帰宅している。子どもたちとの会話には、かなりの時間が割かれている。
ジュリアはチェロを習い、ケビンはサッカーをやっているが、二人とも、気持ちがいいくらい、自然に育っている。
ケビンは、ハックルベリーフィンに登場しそうな典型的なアメリカの男の子という感じだし、ジュリアも素朴な女の子だ。「すごい豪邸だね」と私がジュリアに言ったとき、「5年前は、本当に狭い家に住んでいたのよ」と、本当に自然に言っていた。
こうしたことを、さらりと言えるのが、育ちがいいということなのだ。