黒澤明監督の「天国と地獄」を観た

天国と地獄

 黒澤明監督の1963年製作の「天国と地獄 [DVD]」はこれまで何回か観ている。
 横浜の浅間台で起こった誘拐事件を、組織的な調査で刑事達が犯人を追い詰めていく。
 横浜市の西区や中区はもちろんのこと、自動車道路で横浜新道、通称江ノ電といわれる江ノ島電鉄と腰越や小動、そして黄金町などが意味あるロケ地として登場する。
 とりわけ列車のシーンがよく撮れている。
 テーマは、おそらく題名と関係のある社会的格差の問題が基底にあるのだろう。苦労人ではあるが金持ちの家庭と貧しい成育歴をもつ青年との対比が描かれている。サスペンスとしては、子どもの絵やテープレコーダー、煙突の煙のカラーリングと、道具立ても悪くないのだが、深みは今ひとつの印象があるのは、そうしたものに少し拘泥しすぎているからだろうか。それとも権藤氏が善人過ぎるからだろうか。あるいは刑事達の義憤が強すぎるせいだろうか。
 ただし、「仕事」としての刑事達の組織力は説得力がある。黒澤映画の魅力は、なんといっても「天国と地獄」のような、建築の空間の構成のような構造に他ならない。この点では、「天国と地獄」は、黒澤映画らしい。
 ただし、黒澤明監督の現代劇なら、「悪い奴ほどよく眠る」の方も悪くない。いずれも香川京子が好演している。