これはフィリマコ・ブラックによるジャズボーカルのアルバムだ。
定番のジャズスタンダード曲が少なくないけれど、それをマオリ語で唄っていることが味噌だ。
たとえば、Georgia On My Mind。
タイトルは、Hōria/Georgia On My Mindとなっている。
これは、男子の名前Georgeのマオリ語の借用語がHōriであり、Hōriaなら、Georgiaとなるからだ。
全曲マオリ語で歌っているかといえば、Good Morning Heartache, Cry Me a River, What a Difference a Day Makes, The Look of Loveなどは、英語で歌っている。
マオリが英語を話すのはお手の物だ。
このブログで何度も書いているように、問題は、マオリは例外なく英語を話すのに、なぜマオリ語が話せないマオリがいるのか、である。
フィリマコ・ブラックにとって、ジャズのスタンダード曲を英語で歌うことに問題があるはずもない。そのことを考えると、ジャズスタンダード曲を、あえてマオリ語で唄うフィリマコ・ブラックの姿勢から、マオリの気持ちを汲み取らないといけない。
昔はシャンソンもジャズも日本語に訳して歌っていた日本人だが、異文化のジャズスタンダードに挑戦するなら、今なら徹底したコピーに努力するだろう。それは大言語の英語だからだ。英語くらいできないといけないという「常識」や「憧憬」があるからだ。私から言わせれば、マオリ語を公用語化したマオリはその先を行っている。こうして、フィリマコ・ブラックのマオリ語によるジャズスタンダードは、「母語の重要性はマオリから学べ」という私の持論を実証する一例にもなっていると思うのだ。