映画「ヘルプ」といえば、私の世代であれば、ビートルズの映画かと思ってしまうだろうが、今回観た映画の原題は、”The Help”。多分「お手伝い」くらいの意味になるのだろう。
2011年製作の映画”The Help”は、アメリカ合州国の、1960年代の、Jackson, Mississippiの家政婦の物語。
アフリカ系アメリカ人(African Americans)に対する人種隔離政策や人種差別、深南部(Deep South)については、大昔の高校時代に、朝日新聞社の本多勝一記者による「アメリカ合州国」で学んだ。
水飲み場も、バスも、トイレも、黒人用はColoredとして区別(差別)され、黒人は、invisible、まさに「見えない」(invisible)存在であった。
白人宅で働いているのに、その黒人家政婦たちがどんな気持ちだったのか、白人たちはその本音を聞かされることはなかった。映画「ヘルプ」は、彼女たちの本音を、その聞きとり調査をして、出版にこぎつけるという話で、出版自体がたいへん危険であった。ところが、出版されれば、実際の本音を聞きたいと、とりわけ白人女性たちにとっては気になって仕方がない。そして、読めば面白いという、相互理解なんて夢のまた夢の、隔絶・断絶した世界が存在していた。
モノを書くということの意味も考えさせられる映画「ヘルプ」。
私は大変いい映画と思ったのだが、黒人女性史の立場からは、当時の黒人女性の実態を正しく伝えていない。実態を歪曲・無視・誇張している、エンターテインメント(娯楽)だからということでも許せないという批判があるようだ。
なるほど、たしかに、1960年代初頭のJackson, Mississippiと、時代と地域とを限定すれば、時代考証も事実認証も必要となり、批判も出てこようというもの。それだけ、深刻な差別とすさまじい暴力があったということなのだろう。人権侵害・人権蹂躙され、殺され、傷つけられた側からすれば、事実の歪曲・無視・誇張ということになるのであろう。
30年以上も前にサンフランシスコの映画館で見たディズニー映画”Song of the South”は、この映画の時代背景である19世紀末のアメリカ南部の黒人生活があまりにも現実とかけ離れているという理由から、全米黒人地位向上協会(NAACP)によるクレームがあり、ディズニー社の自主規制により1986年以降公開されることはなくなってしまっている。
そうしたことを承知のうえで、事実の歪曲・無視・誇張されたものですら無知な私たちは、敢えていえば、批判もあるということを承知のうえで、「ヘルプ」は、見てもらいたい映画のひとつではないかと思う。
NAACPの”Image Award for Outstanding Motion Picture”というものがあり、そのwinnerには、例えば私が観たものでも、”The Color Purple”(1986)、”Malcolm X”(1995)、”Remember the Titans”(2001)、”Ali”(2002)、”Ray”(2005)、”Precious”(2010)などがあり、2012年のwinnerには”The Help”があったので、安心した。
Morgan Freemanの"Driving Miss Daisy"、"Invictus"、Denzel Washingtonの"Remember the Titans"、Woopie Goldbergの"The Long Walk Home"などと同様に、映画"The Help"は、ぜひ観てほしいものの1本である。
日本公開は、2012年3月。