「男はつらいよ」の御前様の役で知られる笠智衆さん。
その笠智衆さんの「小津安二郎先生の思い出 (朝日文庫 り 2-2)」を読んだ。
前にも書いたように、わたしは熱烈な映画ファンではないのだが、よく映画を見るようになった。
古い日本映画も観るようになると、笠智衆さんが、たとえば木下恵介監督の「二十四の瞳」では男先生役をやられていたことに気づく。
黒澤明の「悪い奴ほどよく眠る」にも出ていた。息の長い役者さんだということに気づいた。
よく知られているように、最近、再度見た「東京物語」にも出ている。
それどころか、笠智衆さんは、小津映画のほとんどに出演していて、笠智衆さんが、「生涯『先生』と呼び続けたのは、小津安二郎だった」という。
それで、本書を手にとって読んでみた。
面白いエピソードがたくさんあるが、とくに次の一文が印象に残った。
小津先生とご一緒に魚釣りをしたことはありませんが、先生が釣り糸を垂れる姿は、たやすく思い浮かべることができます。
先生の演出は、”釣り”のようでした。俳優がエサにかかるまで、根気よくいつまでも待つ。うまくできるまでは、けっして動かない。大声を出して魚を逃がしてはたまらんので、怒鳴るような馬鹿なことはせん。先生が本当の釣りをやられたら、きっと名人級だったでしょう。