パックンの「ツカむ!話術」を読んだ

ツカむ!話術


 パックンこと、パトリック・ハーラン氏の「ツカむ!話術」をたいへん面白く読んだ。

 話すときに大切なことが、とてもわかりやすく書いてある良書である。









 印象に残った点はたくさんあるが、たとえば、「対話のマナー、エチケット」のこと。

意見の違いはあって当然。だけど、それを理由に、相手をバカにしたり、いじめたりしてはいけない。

 パックンがそうした言葉を使っているわけではないが、別の言葉でいえば、これは「個人の尊重」だったり、「人権」ということになるのだろう。まさに私たちが学ばないといけない姿勢である。


 「エトス」「パトス」「ロゴス」のところでは、パトスの危険性についてもきっちり触れていて、全体構成の終わりのほうではあるが、「戦争を引き起こしたパトステクニック」として、「政治的な目的でテロ警告レベルを上げるように指示されていた」という「悪用」例が出されている。


 次の認識は何回か本書に登場するのだが、俺にはたいへん教訓的で説得力があった。
 

 エトス・パトス・ロゴスは同等の力を持っているものではありません。エトス>パトス>ロゴスとなっています。どんなに綺麗な言葉づかいでどんなに論理的に正しいことを言っても、エトスの信憑性とパトスの感情力を伴わないと説得力がない。

 ロゴスのところでは、パックンがロゴスを自分なりに広くとらえているので、「論理的でなくても、意味が正しくなくても、説得力がある。論理としては成立しないけれど、説得力があって、ロゴスとして効果的な表現力というものがあるんです」という指摘も、なかなかのものだと思う。

 日本とアメリカの「コモンプレイス」の違いの箇所も面白かった。

 本書が良書であると思う理由のひとつは、「騙す話術の見抜き方」「批判的思考を磨け!」に触れている点だ。
 「騙されないためのコミュニケーションテクニック」。その一例としてあげられている「ブッシュ・ジュニアの話術」であるが、ブッシュ・ジュニアの話術に対しても、「この批判的思考をアメリカ国民が持っていれば、戦争を阻止できて、大量の血と涙と富を流さずに済んだかもしれません」という本書の一文は、俺の、パックンのエトス度・パトス度・ロゴス度を確実に上げてくれた一文である。

 パックンが言っていることは、本書でも紹介されているように、おそらくアリストテレスの「弁論術」やエドワード・ホールらが言っていることを下敷きにしているのだろう。
 また、日本人の弱点に触れていることはもちろんだが、同時にアメリカ人の弱点に触れていることも、上から目線ではなく、fair(公平)と感じた。これも、俺の、パックンに対するエトス度・ロゴス度を上げてくれた*1

 他にも紹介した点があるけれど、「ツカむ!話術」に興味のある方々に本書の一読をおすすめする。 

*1:ただし、その後のとりわけ2020年代のパックンの発言は御用学者やテレビや政権に迎合し評価できるものが少なくなった印象がある。