「「規制、穴のあけ方問題」「加計ありき」前川氏発言概要」

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 以下、朝日新聞デジタル版(2017年6月24日00時08分)から。

 前川喜平・前文部科学事務次官が23日、学校法人「加計(かけ)学園」の獣医学部新設問題について、日本記者クラブで記者会見した。発言の概要は次の通り。


 【冒頭発言】

 5月25日に会見したが、国家戦略特区の獣医学部設置をめぐって行政がゆがめられたと思っていて、事実が隠蔽(いんぺい)されたままでは民主主義の危機だと思った。一部の者のために権力が使われると問題だ。

 文部科学省は、最初は「文書の存在は確認できない」という調査結果を発表したが、追加調査をして文書の存在を認めた。一定の説明責任は果たし、隠蔽(いんぺい)のそしりから免れたのはうれしく思う。松野博一文科相も大変苦しいお立場なので、敬意を表したい。

 文書は、いずれも作成の時点で文科省の職員が実際に聞いたこと、触れた事実を記載していると思っている。ほぼ100%記載の内容は間違いないと考えている。行政のゆがみを告発したいという気持ちからだと思うが、外部に提供する動きが相次いでいる。現職の職員の勇気は評価したい。

 こうした文書が次々と出てくることで、国民の間で疑惑は深まっている。文科省も一定の説明責任は果たしつつある。しかし、内閣府首相官邸は様々な理由をつけて事実を認めようとしていない。それは私から見れば不誠実。真相の解明から逃げようとしている。

 「官邸の最高レベルが言っている」「総理のご意向」という文言については、内閣府は自分の口から発した言葉を自ら否定していて、これはあり得ない話だ。スピード感をもって規制改革全体を進めるという総理の意思を示したとの説明も、無理がある。素直に読めば、「総理のご意向」が何を指しているかはわかる。今治市獣医学部開設を平成30年4月にしてほしいということだ。これが「加計学園」のことだということは、関係者の間では事実上、公然の共通理解だった。(文書を作成した職員が)取り違えるはずはない。

 本当の意味での説明責任を果たしていただくことが必要だ。第三者性の高い組織を設けて検証するのも考え方だと思う。内閣府からヒアリングできる。そうした方向も考えてしかるべきだと思う。総理が会見で、指摘があれば真摯(しんし)に説明責任を果たしていく、と述べている。総理自ら先頭に立って説明責任を果たしてもらいたいと思っている。

 この問題を、規制改革を進めようとする改革派と岩盤規制に固執する抵抗勢力に分け、「勧善懲悪」のように考える人もいるが、本質を見誤っている。規制改革は、きちんとした検証と検討の結果として判断されなければならない。

 今回は、獣医学部新設で規制に穴を開けたことではなく、開け方に問題があると思っている。疑問点を言えば、第一は、「加計ありき」だったのではないか。そのために最後の段階で条件が付け加えられた。「広域的に獣医学部が存在しない地域に限る」「平成30年4月に開学できるものに限る」「1校に限る」となって、加計学園しか申請できず、京都産業大は排除された。一つの主体だけが恩恵を被っており、根拠や手続きが不透明だ。

 二つ目の疑問点は、国家戦略特区諮問会議、その下のワーキンググループが、本当にちゃんとした検討をしたのか。この点は非常に問題があると思っている。

 特区制度は、特定の場所の特定の主体に特別なチャンスを与える仕組みだ。決定プロセスには透明性や公平性が必要だ。獣医学部新設に当たって閣議決定された「4条件」を満たしているかについて、検証されているか。新たに対応すべき人材需要が明らかにされているのか。既存の大学では対応できないのか。これらの検証がされているか。京都産業大の提案と比べ、十分な比較検討がされたのかも疑問が残る。

 需要については獣医師を所管する農林水産省の参画が不可欠だが、私としては実質的な参画はなかったと言わざるをえない。厚生労働省は終始一貫、関与していない。このプロセスは非常に疑問が残る。

 獣医学部をめぐる問題で、認識を新たにしたのは国家権力とメディアの関係だ。ここにも日本を代表するメディアが集まっている。私に対する個人攻撃と思われる記事が5月22日の読売新聞に掲載された。背後に何があったのか、メディア関係者のなかで検証されるべきだ。私は個人的には官邸の関与があったと考えている。

 加計学園に関わる文書について、私に最初にインタビューしたのはNHKだが、それがいまだに報じられていない。当初、NHKが文書を報じた際に「官邸の最高レベルが言っている」という核心部分は黒塗りされていた。これはなぜなんだろう。

 (テレビ番組に出演する)コメンテーターの中には、いかなる状況証拠が出てきても、官邸の擁護しかしない方がいらっしゃる。私はいまの国家権力とメディアの関係に非常に不安を覚える。国家権力と、第4の権力と言われるメディアの関係を問い直す必要性がある。メディアの自浄作用に期待したい。

 【質疑応答】

 ――文科省が20日に公表した「10/21萩生田副長官ご発言概要」との文書で、和泉洋人首相補佐官の発言として「農水省は了解しているのに、文科省だけが怖(お)じ気(け)づいている」とあるが。

 私は現職中はこの文書を見ておらず、報道で知った。内容はほぼ事実ではないか。文書をつくった課長補佐は極めて優秀でしっかりしており、虚偽の内容を盛り込むことはありえないし、聞き間違いをするとは思えない。文科省は最後に大学の設置認可をするので逃げられない立場だ。責任を自覚し、慎重な姿勢を取っていたのを「怖じ気づいた」と表現したのだと思う。

 ――獣医学部新設の問題をめぐるキーパーソンはだれか。

 和泉(洋人)首相補佐官ではないか。私に直接、働きかけがあったのは和泉さんだ。(昨年)9月上旬、官邸執務室に呼ばれて文科省の対応を早くしてほしいと言われた。「総理は自分の口からは言えないから、私が代わって言う」という発言もあった。「10/21萩生田副長官ご発言概要」でも、和泉補佐官と話した結果が文科省に伝えられている。和泉補佐官が全体のシナリオを書いていると思う。

 ――萩生田光一官房副長官の役割は。

 文科省から見たとき、頼りになる(自民党国会議員の)文教族だ。農水省厚労省などとの調整をしてもらえないか、という気持ちを文科省は持っていた。昨年10月7日の日付がある別の文書でも、萩生田副長官は「自分が調整する」とおっしゃっている。だが、調整機能は果たしていただけなかった。21日には、文科省を説得する側に回っている。

 ――文科省の大学設置・学校法人審議会が8月に結論を出すが。

 非常に権威ある審議会だが、国家戦略特区の制度の目的にかなっているのか、などは審査しない。国家戦略特区諮問会議にもう一度、特区で認めるに足るかどうか、改めて判断してもらう必要がある。