以下、朝日新聞デジタル版(2017年7月12日16時17分)から。
東京都議選で惨敗した自民、民進両党が、10月の衆院愛媛3区補選に向けて早くも動き出した。安倍晋三首相(自民党総裁)、民進党の蓮舫代表ともに自身の行く末を大きく左右する可能性のある戦い。加計学園の誘致問題も絡み、与野党による総力戦となるのは必至だ。
「すべてを回復する意味での良いチャンスだ」
自民党の二階俊博幹事長は11日の記者会見で、補選の位置付けについてこう語った。東京都議選の惨敗から1週間。内閣支持率は下げ止まらず、政権には危機感が広がる。8月初旬の内閣改造・党役員人事で態勢立て直しを図り、補選には閣僚や党幹部を投入した総力戦で臨む方針だ。
補選は10月10日告示、22日投開票。自民党麻生派に所属していた白石徹氏が3月に死去したことに伴う。後継擁立に動いたのは、派閥会長の麻生太郎副総理だった。4月初め、徹氏の地元・愛媛県新居浜市で開かれた徹氏の「偲(しの)ぶ会」。麻生派議員約20人が見守る中、次男の寛樹氏(29)の名を挙げ、「父親の遺志を知っている。引き継いでもらいたい」とあいさつし、流れをつくった。
党愛媛県連の公募に正式に応じたのは寛樹氏だけ。今月3日の麻生派と山東派などの合流式では、国会議員の記念撮影の列に寛樹氏が加わった。県連は7日、全会一致で党本部への公認申請を決めた。麻生派幹部は「弔い合戦でなければ勝てない、という判断もあった」と明かす。
しかし、補選では国会で追及が続く加計学園問題が影を落とす。発端となった獣医学部新設が予定されているのは3区に隣接する今治市。10日の閉会中審査で、加戸守行・前愛媛県知事が「愛媛県の夢を託す事業」と語るなど地元では獣医学部誘致に賛成論が根強いものの、自民内には「風当たりは強い」(県選出国会議員)との声がある。
都議選惨敗で求心力が低下し、逆風が続く安倍首相にとっても厳しい戦いになる。もともと自民の議席。しかも時期は、自身が打ち上げた党の憲法改正原案の提出に向けた議論が山場を迎えるころと重なる。
都議選は都連幹部の引責辞任で収めようとしているが、国政選挙でその論理は通用しない。党県連会長の山本順三参院議員は公認申請を決めた際、「都議選の結果にびびりながらやるわけにはいかない。丁寧に謙虚にやりながら全力を挙げる」と語った。(寺尾康行、寺本大蔵)
■民進瀬戸際、共産と連携課題
民進にとっても党の存亡がかかる戦いとなる。
「補選だぞ」
馬淵澄夫選挙対策委員長は徹氏が死去した当日、民進元職の白石洋一氏(54)に電話を入れ、連合愛媛の杉本宗之会長(当時)にも選挙協力を要請した。
馬淵氏はその後8回にわたって愛媛に入り、洋一氏や連合と協議を重ねた。今月18日にも公認を決定し、選対本部が発足。9月からは党幹部らを応援に入れ、党を挙げた態勢を敷く。
都議選で議席を減らし、政権批判の受け皿になり得なかった現実が党に重くのしかかっている。野田佳彦幹事長は補選について、「単なる1議席ではなく、全体に大きな影響を与える」と話す。結果次第では蓮舫氏の進退論が再浮上し、小池百合子都知事を支持する勢力による新党結成の動きを後押しすることにもなりかねない。
当面の焦点は、共産党から立候補を表明している新顔の国田睦氏(65)との一本化だ。共産の小池晃書記局長は10日の記者会見で「野党は脇目も振らず、選挙協力に向けて突っ走ることが必要だ」と強調。補選について「野党が一致して戦えるよう至急協議を進めていきたい」と述べた。
だが、民進の一部や、選挙支援する連合側は、共産が前面に出る連携に否定的な意見が根強い。民進幹部は「共産が黙って候補をおろしてくれるのが一番良い」と話すが、共産幹部は「応援はいらないというのは困る」と不快感を示しており、両党の協議がもつれる可能性もある。
加計学園問題でも、地元の賛成意見を踏まえ、民進幹部は「踏み込んだ批判はできない」。共産は補選でも追及する姿勢で、温度差は明らかだ。民進のベテラン議員は「(補選は)政策スタンスも含め、次期衆院選での野党共闘の試金石となる」と話す。(岡本智、前田智)