「強気一変、守る首相 野党攻勢「国民納得しない」 閉会中審査」

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 以下、朝日新聞デジタル版(2017年7月26日05時00分)から。

 書類に目を落としながら「丁寧な上にも、丁寧に」――。25日の参院予算委閉会中審査で、安倍晋三首相は前日に続き、加計(かけ)学園の問題で慎重な答弁を続けた。強気な姿勢を一変させたのは内閣支持率の低下。これを機に野党は攻勢に転じ、事実関係が解明されないことに「国民は納得しない」とたたみかけた。

 「今までの安倍総理の答弁のなかで一番説得力がない。はっきり言って」。午後の委員会。共産党小池晃氏は、あきれた様子で安倍首相に言った。

 焦点となったのは、加計学園獣医学部計画について、今年1月20日の国家戦略特区認定まで知らなかったとする安倍首相の答弁。過去の国会では「申請段階で承知をした」と述べていたが、これを修正。この日は「申請を決定する段階だった」とした。

 小池氏が「でたらめな答弁」などと指摘するたびにヤジの声が高まり、審議はたびたびストップ。首相は「混乱して答弁したことはおわびしたい」「厳密さに欠けていた」などと繰り返した。

 批判の矛先は自民党議員にも向いた。小池氏が、自身の事務所に送られてきたという告発文を披露した際だ。文部科学省作成とする文書が添えられ、手紙には「加計学園による新設ありきで糾弾してほしい」と書かれていたという。

 小池氏がこの文面を読み上げると、自民議員が座る席の方向から「誰(からの手紙)?」といったヤジが飛んだ。小池氏は一転して声を荒らげ、「文書を示すと、出どころが不明確だとかしか言えない。これが今の自民。だから国民から見放されるんじゃないか」。

 自由党森ゆうこ氏は、主張を裏づける資料を出さない安倍首相の姿勢を問題視。「総理がいくら潔白と言っても国民は納得しない。資料を出させるように指示して」と迫ったが、首相は具体的な対応に言及することはなかった。

 加計学園獣医学部計画を知った時期の首相の修正は、午前中の質疑で民進党蓮舫氏が引き出した。「事実に基づくという言葉が揺らいでいる」「求められているのは丁寧な口調ではない」などと蓮舫氏は強い口調で指摘。安倍首相は「整理が不十分だった」と繰り返し釈明した。

 この日、野党側から相次いだ質問や指摘を、安倍首相はほぼ低姿勢で受け続けた。ただ、事実関係については、手もとのメモを見ながら同様の答弁を繰り返すのみ。野党側が求めた加計学園の加計孝太郎理事長の証人喚問については、「国会がお決めになること」とした。

 (岡戸佑樹、杉浦幹治)

 ■丁寧さ「世論を意識」 新情報なく「不誠実」 専門家らの見方は

 東京都議選での自民党の大敗後、安倍首相が初めて臨んだ国会論戦。冒頭で「丁寧な説明をする」と宣言したが、2日間の首相の答弁を識者はどうみたか。

 首相は計10時間の審議で、130回、答弁に立った。野党のヤジにも表情を大きく変えることなく淡々とマイクに向かった。

 「だいぶ姿勢が変わったのを感じた」と歴代首相のスピーチを研究するソジエ内田恵美・早稲田大教授(応用言語学)は言う。「丁寧な上にも、丁寧に」「批判にも耳を傾け」「真摯(しんし)に」「率直に認め」「誠意を持って」など、同じような概念の言葉を別の表現に言い換えて繰り返し使っていたことから、「世論の反発をかなり意識していたのだろう。緊張している様子もうかがえた」と内田さんはみる。

 ただ、口調は丁寧だったが説得力には欠けたとも指摘する。「なぜ新たに獣医学部を作る必要があるのか。既存の大学ではなぜダメなのか。根拠を示して批判に答えてほしかった」

 危機管理業務を手がけるゼウス・コンサルティングの白井邦芳代表は「これだけ支持率が下がる原因にもなった言動について、まず率直に謝るのは当然だ」と話す。

 その上で、ポイントは二つあったと指摘する。(1)和泉洋人首相補佐官と柳瀬唯夫・元首相秘書官が何を語るか(2)今治市職員はなぜ官邸を訪問したのか――。加計学園問題に首相が関与したかどうかにつながる重要な要素だからだ。

 だが、柳瀬氏が今治市職員との面会を「記憶にない」と言い、官邸への来訪についても「記録がない」と首相が言ったことで、「結局、何か隠しているのではないかという印象が強く残ってしまった」。

 首相の言葉遣いや態度は一変したが、本質は変わっていないと批評家の大澤聡さんは言う。「これまでは感情を前面に出して敵味方を分けていたのが、殊勝な態度で同情を集める戦略に変わっただけ。野党の『印象操作』を批判してきた政権こそが『印象操作』に熱心だ」

 結局、新しい情報がほとんど出なかったことも政権の不誠実さを象徴している、と指摘する。「真実だけが議論の蚊帳の外に置かれたままになっている」

 (田玉恵美)