「少しばっかり頭がいいばっかりに、お前なんかの、何倍もの悪いことをしとる奴がうじゃうじゃいる」(坪内散歩先生)

 佐藤オリエさんがマドンナ役の「続・男はつらいよ」(第2作)は、山田洋次監督の傑作である。

 車寅次郎が、葛飾商業で英語を習った恩師・坪内散歩先生(東野英次郎)。いまは坪内英語塾の先生として子どもたちを英語を教えている。
 坪内先生の娘の夏子(佐藤オリエ)は寅次郎の幼馴染。例によって惚れてしまうが、藤村医師(山崎努)の登場で、失恋する。
 映画の中で、坪内散歩先生と、その娘・坪内夏子と、車寅次郎のやりとりの場面が何度か登場するのだが、以下はその一場面である。

 この場面のあと坪内散歩先生が許せない人物で具体的に示すのは、今は出世してえばっている級長をしていた医者の息子だが、「少しばっかり頭がいいばっかりに、お前なんかの、何倍もの悪いことをしとる奴がうじゃうじゃいる」と先生がいうときの連中の中には、自らの私利私欲ばっかりで、国民の幸せなんかこれっぽっちも頭にない政治家たちも当然含まれると、勝手に俺はそう思っている。
 
 いまの日本の政治状況をみるにつけ、「少しばっかり頭がいいばっかりに、お前(車寅次郎)なんかの、何倍もの悪いことをしとる奴がうじゃうじゃいる」という散歩先生の嘆きは、俺の嘆き、そして俺の怒りと重なるところがある。

 実際、今の日本の政治家には、「少しばっかり頭がいいばっかりに、何倍もの悪いことをしとる奴がうじゃうじゃ」いやしまいか。

散歩先生:(寅次郎と酒を酌み交わしながら寅次郎に向かって) こら、渡世人! フーテンの寅コウ! 
寅次郎:へい。
散歩先生:お前は実にバカだなあ。お前を退学させた校長のタヌキもバカだが、そのタヌキをぶん殴ったお前は、もっともっとバカだぞ。
寅次郎:へい、すいません。
散歩先生:すいません?すいませんと言っただけで、お前は自分のバカさ加減がわかっておるのか。
夏子:お父さん、もうおやめなさい。悪いわよ、そんな。
寅次郎:いやいや、お嬢さん。どうぞ止めねえでおくんなせぇ。今あっしのことをこうやってお叱り下さるのは、先生お一人しかおりませんからね。先生、本当にありがとうございます。
散歩先生:よし。
夏子:でもね、お父さん。
坪内先生:うるさい。お前は酒でも持ってきなさい。
夏子:ふぅん。
寅次郎:さ、先生、もっと叱って下さいよ。
坪内先生:ようし。お前のようなバカは、いくら叱っても叱り足りん。
寅次郎:へい、その通りです。
散歩先生:ただ、しかしだ!俺が我慢ならんことは、お前なんかよりも、少しばっかり頭がいいばっかりに、お前なんかの、何倍もの悪いことをしとる奴がうじゃうじゃいるということだ。こいつは許せん。実に許せんバカモンどもだ、トラ!
寅次郎:あたくしより、バカがおりますか?
散歩先生:おるおる。無数におる。
寅次郎:どこのどいつでございます。