以下、朝日新聞デジタル版(2018年3月25日5時0分)から。
あの日、午後2時すぎ、フロリダ州マージョリー・ストーンマン・ダグラス高校の校舎に警報が響いた。誤作動? 避難訓練? 多くの生徒は勘違いした。
リアム・キーナン(15)は隣の校舎から銃声が聞こえた気がした。「いま銃声が聞こえなかったか?」
一緒にいた友人は笑って答えた。「冗談やめろ」
直後、同じ方向からパンッパンッパンという連射音と悲鳴が聞こえた。凍り付いた。「教室に隠れろ!」
隅で息を潜めた。しばらくして携帯電話に「女子1人死亡」と情報が届いた。両手でショートメッセージを打った。急いだ。着信音が鳴ってはまずい。校外の家族や知人に送った。
やりとりが残っている。
「学校に銃撃犯がいる」
「女子が1人殺された」
犠牲者は刻々と増えた。5人、12人、17人。死を覚悟し、最も伝えておきたいメッセージを打ち込んだ。「愛してる」
ガラス戸越しの廊下に人の気配がした。「通り過ぎてくれ」。祈った。
影は教室の前で止まり、ドアが開いた。「ダメだ。僕はここで死ぬんだ」。目を閉じた。大声が響いた。「けが人はいないか」。救助に来たSWAT(特殊装備戦術部隊)チームだった。
翌朝、犠牲者リストに友人ジナ・モンタルト(14)の名を見つけ泣き崩れた。容疑者は半自動ライフル銃で犯行に及んだ。「自己防衛ではなく殺人用。とっくに禁止されているべきだ。なぜ政治家は動かないんだ」
別の部屋に隠れていたデミトリ・ホス(18)も憤りが収まらない。「なぜ軍仕様の突撃銃が街で買える?」
声を上げると批判されるようになった。「高校生に過ぎない、子どもの運動だと言われるが見くびらないで欲しい。政治が行動しないなら僕らの世代が動く」
2月14日に元生徒(19)が起こした銃乱射事件に端を発した生徒らの訴えは、テレビなどを通じて全米に広がった。著名人からの寄付も集まり、「私たちの命のための行進」が、今月24日にワシントンで開かれた。
1960年代に人種差別に立ち向かった牧師キングの「ワシントン大行進」など、先人の行動に勇気づけられている。全米から最大50万人が参加すると見込まれ、全米800カ所でも行進が計画されている。
行進参加を企画した同校の元生徒ケイトリン・パランデューク(17)は語る。「怒りのエネルギーを前向きな行動に結びつけたい」
17人が犠牲になったダグラス高校の生徒らも24日、約1600キロ離れたワシントンにバスで到着した。所要時間約20時間。記者も同乗した。
=敬称略
(パークランド〈米フロリダ州南部〉=金成隆一)