「あおり続けたトランプ氏 やまぬ非難、影響力低下の見方」

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以下、朝日新聞デジタル版(2021/1/7 21:00)から。

 米大統領選の結果を確定させる手続きを阻止しようと、トランプ大統領の支持者たちがワシントンの連邦議会議事堂に実力行使で乱入した。米国の民主主義の根幹を揺るがす事件に、衝撃が広がった。

 ワシントンは6日夜明け前から、物々しい雰囲気に包まれた。「米国を再び偉大に」と書かれた赤い帽子をかぶったり、「トランプ2020」と書かれた青い大旗を振りかざしたりする人たちが続々と集まった。「選挙を盗むのをやめろ」と書かれたプラカードを掲げる人も多かった。

 この日は、米大統領選で各州に割り当てられた選挙人の投票結果が上下院の合同会議で確認される予定だった。通常の大統領選では注目されない事務的な議会手続きだが、トランプ氏は証拠を示さずに「不正選挙だった」と主張し、敗北を認めていない。支持者にも、合同会議に合わせての抗議を呼びかけていた。

 集まった支持者はホワイトハウス南側の会場に入りきらず、近くにあるワシントン記念塔の前の緑地を埋めた。ワシントンのバウザー市長は銃の持ち込みの禁止を周知していたが、こん棒や角材のような旗ざおや杖を手にしたり、ヘルメットや防弾チョッキを着けたりする人もいた。

 正午前にトランプ氏が防弾ガラスの張られた舞台に姿を現すと歓声が上がった。トランプ氏は選挙不正の訴えを1時間以上続け、「ここにいる全員が連邦議会議事堂に行き、平和的に愛国的に、あなたたちの声を聞かせるために行進することを知っている」と呼びかけた。

議長席に座り、建物も破壊
 参加者はその後、約2キロ離れた議事堂に向かった。一部が警官とバリケードを挟んで小競り合いを続けた後、午後2時過ぎにはバリケードを突破して敷地内に乱入。外壁を登ってからテラスに到達し、窓ガラスを割って議事堂内へ入った。

 侵入を受け、合同会議は中断され、ペンス副大統領らは避難。侵入者たちは議事堂内を占拠し、建物も破壊した。ワシントン・ポストによると、警察官に制止されても、侵入者たちは聞かず、警察官が発砲する場面もあった。地元警察によると、議会警察に撃たれた女性1人を含む4人が亡くなった。残る3人は「医療措置を必要とする緊急事態」だったという。

 メリーランド州の機械工の男性(34)は議事堂の敷地内で、警備当局者が催涙ガスを発射して対抗する現場に居合わせた。「議場に入ったのは、不正と闘うために立ち上がった勇敢な愛国者だ。警備当局も本当は相手にしたくないはずだ」と興奮した様子で語った。ジェフと名乗る男性(62)は「税金で運営している議会の不正をただすために、議会に入る権利がある。銃撃された市民が死亡すれば、警備当局の責任だ」と声を荒らげた。

 ワシントンでは午後6時から夜間外出禁止令が出され、政府は州兵の動員も決めた。警官隊も催涙ガスや閃光(せんこう)弾を使って議事堂周辺から群衆を遠ざけ、午後6時前には「安全が確保された」と発表した。

 米国史上、例がない占拠事件が起きた大きな理由は、トランプ氏の言動にある。2016年の大統領選から様々な陰謀論を展開しつつ、支持者をあおってきた。今回の大統領選に向けた討論会では、極右の過激派団体を非難するか問われ、逆に「下がって待機せよ」と呼びかけた。

 さらに、大統領選で敗北が濃厚になると「我が国に対する重大な詐欺行為が起きている」と不正を訴え、各地で訴訟を展開。敗訴続きだが、トランプ氏に同調して「不正」を訴える共和党議員も相次いだ。トランプ氏は昨年末のツイートで「不正で盗まれた選挙」は「戦争行為と見なし、死にものぐるいで闘うものだ」と支持者に訴えた。

 ニューヨーク・タイムズによると、今回の議事堂侵入事件も、州兵の派遣命令を出したのは、ペンス氏で、トランプ氏は当初拒否したという。6月の人種差別への抗議デモが全米に広がった際に、鎮圧のために米軍派遣を表明したのとは対照的だ。(ワシントン=香取啓介、渡辺丘)

「容認できない攻撃だ」非難相次ぐ
 大統領選の結果を否定しようとする群衆が、連邦議会議事堂に乱入したことは、米社会に大きな衝撃を与えた。議事堂は米国の権力の中枢の一つで、米メディアによると、侵入されたのは、米英戦争中の1814年に英軍が攻撃したとき以来という。

 乱入したトランプ氏の支持者に対しては、共和党内からも批判の声が相次いだ。プリーバス元大統領首席補佐官はツイッターで「彼らの多くは国内テロリストだ。民主主義を尊重しない暴力的な人々だ」と非難。ローゼン司法長官代行は「民主主義の根本的な機構に対する容認できない攻撃だ」との声明を出した。ブッシュ元大統領は「一部の政治指導者による、選挙後の無謀な振る舞いにがくぜんとしている」と声明を発表し、名指しを避けつつ、トランプ氏や同調する政治家の問題を指摘した。

 さらなる混乱を避けるため、トランプ氏による発信を制限しようという動きは、IT企業の間で広がった。トランプ氏は事件後、ツイッターに投稿した動画で支持者に「家に帰る時だ」と呼びかけた。ただ、「我々の選挙が盗まれた」という主張を繰り返し、議事堂への侵入も非難しなかった。ツイッター社は規約違反にあたるとして関連する投稿を閲覧できないようにし、トランプ氏のアカウントを12時間凍結。フェイスブックも、トランプ氏のページを24時間停止し、一部投稿を削除した。

 大統領選の投票をめぐる手続きは上下院の合同会議で終了し、トランプ氏は1月20日の任期終了とともに退任する。だが、「直ちに権力の座から遠ざけるべきだ」との声も出ている。全米製造業協会のジェイ・ティモンズ会長は「去ってゆく大統領が権力を保つために暴力をあおった」と声明を出し、大統領が職務遂行不能になったときの対処を定めた憲法修正第25条を適用して、トランプ氏を罷免(ひめん)すべきだと求めた。一部の民主党議員は、トランプ氏を弾劾(だんがい)する決議案の準備に入った。

 トランプ氏が実際に罷免される可能性は低いものの、今回の一件は、トランプ氏の今後の影響力低下につながる可能性がある。乱入の前には多数の共和党議員がトランプ氏の求めに応じて、合同会議で選挙人の投票結果に異議申し立てをしていたが、事件を経てその勢いはおとろえた。5日にはジョージア州の上院選決選投票でトランプ氏の主張に同調した2人の共和党現職議員が敗北しており、トランプ氏から離れる共和党議員は増えそうだ。

 ただ、トランプ氏は大統領選での敗北を認めておらず、7日早朝も「歴代大統領の中で最も偉大な1期目が終わるが、『米国を再び偉大に』に向けた我々の戦いの始まりだ」と宣言した。退任後も支持者に向けた発信を続け、共和党や米社会への影響力を保とうとするとみられる。(ワシントン=大島隆、園田耕司)